「トランプ保有銘柄」をなぞる投資法は機能するのか──マイクロン・デル急騰の裏で浮上する次の候補リスト
1. 概要
2026年5月14日、米政府倫理局(OGE)はトランプ大統領の第1四半期(1〜3月)財務開示書類を公表しました。113ページに及ぶ書面には3,600件超(一部報道では3,711件)の取引が記載され、累計取引額のレンジは2.2億〜7.5億ドルとされています。
主な購入銘柄として並んだのは、エヌビディア、マイクロソフト、アマゾン、アップル、ブロードコム(いずれも100万〜500万ドル規模)、AMD、インテル、マイクロン、ゴールドマン・サックス、エアビーアンドビー、ドアダッシュ、ブルームエナジー(いずれも50万〜100万ドル規模)など。注目を集めているのは、購入後にトランプ氏自身がメディアや集会でその銘柄に肯定的に言及するパターンが繰り返し観測されている点です。
市場参加者の間では「誰の次が指名されるのか」という関心が高まり、米予測市場Kalshiでは関連銘柄を対象とした取引が74万ドル超の出来高を集めているとされています。
2. 背景:発言と株価の連動例
デル・テクノロジーズ(DELL)
2月10日:Class C株を100万〜500万ドル分購入
5月8日:ホワイトハウスの母の日イベントで、マイケル・デル氏夫妻に謝意を述べ、参加者に「デルを買え」と発言
同日:株価が日中14.6%上昇し、263.99ドルの当時の最高値を記録
5月28日決算後:AIサーバー事業の好調を背景にさらに急騰、5月29日には419ドル台へ
マイクロン・テクノロジー(MU)
3月2日〜3月25日:4回に分けて累計21.7万〜53万ドル相当を購入(いずれも顧客発注を意味する「unsolicited」表示)
3月26日:FOXニュースの番組に電話出演し、CEOとの面会に言及して「最もホットな企業の一つ」と評価
5月22日:ニューヨークでの集会で改めて「素晴らしい」と発言
5月22日のオプション市場では、発言の数分前に行使価格1,400ドルまでの大型コール買いブロック取引が9件以上観測され、わずか数秒間で730万ドル超のプレミアムが支払われたと報じられています
5月26日:株価が19.29%高、時価総額1兆ドルを初めて突破
インテル(INTC)
3月上旬以降、複数回にわたり保有を段階的に増加
米政府が2025年末にインテルへ大規模な出資を実施
4月30日:Truth Socialで株価パフォーマンスを称賛、時間外で約3%上昇
両党の議員から大統領・連邦議員の個別株取引を禁止する法案が提出されているものの、現時点で成立には至っていないと報じられています。トランプ陣営側は、取引は自動化された運用プロセスを通じて執行されているとの説明を出しているとされます。
3. 現状保有していた場合の実績
開示書類は取引価格を「broad range」で示すのみで、正確な購入単価や売却タイミングまでは判明しません。あくまで参考値として、報道で示されている購入時期の終値水準と直近株価から仮の試算をしてみます。
銘柄 | 購入時期 | 購入時期の概ねの株価レンジ | 直近株価(2026/5/28-29) | 概算リターン |
|---|---|---|---|---|
デル | 2月10日 | 110ドル前後 | 419.38ドル(5/29) | +280%前後 |
マイクロン | 3月2日〜3月25日 | 350〜450ドル付近 | 923.52ドル(5/28終値) | +110〜160%前後 |
インテル | 3月以降複数回 | 報道では取得後+100%超とされる | ― | +100%超とされる |
開示書類の保有が3月末時点からおおむね維持されたと仮定した場合、「ほとんどの銘柄で20%以上のプラス、AMD、インテル、イリジウム・コミュニケーションズ、ブルームエナジー、インテュイティブ・マシーンズ、マーベル・テクノロジー、ペンギン・ソリューションズ、サンディスク、シーゲート、ヴィシェイ・インターテクノロジーなど複数銘柄で100%超のプラス」と試算されているとのことです。
ただし以下の点には注意が必要そうです。
開示は1,000ドル超の取引のみが対象で、ミューチュアルファンドや国債、不動産などは含まれない
取引金額は範囲表示で、実際の単価・株数・売却タイミングは不明
自動運用プロセス経由で執行されたとされる取引も含まれており、本人の裁量取引と機械的なリバランスを切り分ける材料は限定的
第2四半期分の追加売買は次回開示まで判明しない
4. 政策から推測する「次の候補リスト」
ここからは、トランプ政権の政策発信と公の発言を起点に、追い風が当たりそうな業界と銘柄を整理します。あくまで政策方向性との関連からの「仮説」であり、実際の保有・売買を裏付けるものではない点をお断りしておきます。
全体観:政策の重点軸
政策テーマ
主な根拠
AI規制緩和・データセンター加速
バイデン期のAI関連大統領令撤回、EO 14318「データセンターインフラ許可加速」、AI Action Plan
半導体・先端技術の国内回帰
半導体・半導体製造装置への232条関税、Stargate計画
原子力ルネサンス
2026年7月までに3基臨界目標、原子力容量を2050年までに4倍へ
化石燃料・天然ガス
「Drill, baby, drill」、LNG輸出促進、データセンター用電源
防衛・国家安全保障
2027年防衛予算1.5兆ドル提案、ベネズエラ作戦、グリーンランド・キューバ・コロンビア言及
医薬品関税と国内製造
特許薬への最大100%関税、米国生産で20%へ軽減
暗号資産・フィンテック
David Sacks氏をAI&Crypto特別顧問に起用
重要鉱物・サプライチェーン
重要鉱物への232条関税、同盟国との重要鉱物枠組み
テーマ①:AI半導体・データセンター
銘柄 | コード | 位置づけ |
|---|---|---|
エヌビディア | NVDA | AI半導体の本丸、Stargate計画の中核 |
ブロードコム | AVGO | カスタムAIチップ・ネットワーキング |
マイクロン | MU | HBMでAIメモリの三大供給者の一角 |
デル | DELL | AIサーバー、ソブリンAIインフラの受け皿 |
スーパー・マイクロ | SMCI | AIサーバー組み立て |
アリスタ・ネットワークス | ANET | データセンター向けスイッチ |
ヴァーティブ | VRT | データセンターの電源・冷却 |
オラクル | ORCL | Stargate主要パートナー、エリソン氏経由で政権と接点 |
パランティア | PLTR | 政府向けAI、防衛・諜報案件 |
テーマ②:原子力・SMR
銘柄 | コード | 位置づけ |
|---|---|---|
コンステレーション・エナジー | CEG | 既存原発の再稼働 |
ヴィストラ | VST | 原子力+ガス火力ポートフォリオ |
GEヴァーノヴァ | GEV | BWRX-300(日米40億ドル枠組みの対象) |
ニュースケール・パワー | SMR | NRC認可済みSMR設計 |
オクロ | OKLO | 先進炉設計 |
キャメコ | CCJ | ウラン上流 |
BWXテクノロジーズ | BWXT | 海軍・SMR向け燃料 |
センターロ・エナジー | LEU | 国産ウラン濃縮 |
テーマ③:化石燃料・LNG・データセンター電源
銘柄 | コード | 位置づけ |
|---|---|---|
エクソンモービル | XOM | 統合石油メジャー |
シェブロン | CVX | 同上 |
EQTコーポレーション | EQT | 米最大級の天然ガス生産者 |
シェニエール・エナジー | LNG | LNG輸出 |
ベーカー・ヒューズ | BKR | 油田サービス・LNG設備 |
ブルームエナジー | BE | 燃料電池、データセンター用分散電源(保有確認済み) |
テーマ④:防衛・国家安全保障
レイセオン(RTX)への自社株買い批判のように、政策方向に沿う業界でも個別企業へ圧力がかかる例も観察されている点には留意が必要そうです。
銘柄 | コード | 位置づけ |
|---|---|---|
ロッキード・マーティン | LMT | F-35、ミサイル防衛 |
ノースロップ・グラマン | NOC | B-21、宇宙・極超音速 |
ジェネラル・ダイナミクス | GD | 艦艇、地上装備 |
L3ハリス | LHX | 通信・電子戦 |
パランティア | PLTR | 防衛AI |
イリジウム・コミュニケーションズ | IRDM | 衛星通信(保有確認済み) |
イントゥイティブ・マシーンズ | LUNR | 月面着陸・宇宙防衛(保有確認済み) |
ヴィシェイ・インターテクノロジー | VSH | 防衛・産業用電子部品(保有確認済み) |
テーマ⑤:医薬品(米国生産シフト誘導)
銘柄 | コード | 位置づけ |
|---|---|---|
イーライリリー | LLY | 米国製造投資を大規模に表明 |
メルク | MRK | 同上 |
ジョンソン・エンド・ジョンソン | JNJ | 同上 |
ファイザー | PFE | 同上 |
サーモフィッシャー | TMO | ライフサイエンス機器(保有確認済み・拠点訪問あり) |
ダナハー | DHR | バイオプロセス機器 |
テーマ⑥:暗号資産・フィンテック・ステーブルコイン
銘柄 | コード | 位置づけ |
|---|---|---|
コインベース | COIN | 米国大手取引所 |
マイクロストラテジー | MSTR | ビットコイン保有戦略 |
ロビンフッド | HOOD | リテール取引・暗号資産 |
ブロック | XYZ | ビットコイン関連、決済 |
サークル | CRCL | ステーブルコイン(USDC) |
ライオット・プラットフォームズ | RIOT | BTCマイニング |
クリーンスパーク | CLSK | 同上 |
テーマ⑦:重要鉱物・米国回帰
銘柄 | コード | 位置づけ |
|---|---|---|
インテル | INTC | 米政府出資先(保有確認済み) |
MP マテリアルズ | MP | レアアース、国防総省出資 |
USA レアアース | USAR | 国内レアアース供給網 |
クリーブランド・クリフス | CLF | 鉄鋼、米国製造業の象徴 |
ニューコア | NUE | 同上 |
キャタピラー | CAT | インフラ・建機 |
ディア | DE | 農機 |
テーマ⑧:量子・宇宙
Kalshiの予測市場では「米国が次に出資する企業」としてリゲッティ・D-Waveが80%超で評価されているとされます。
銘柄 | コード | 位置づけ |
|---|---|---|
リゲッティ | RGTI | 超伝導量子、Kalshi上位 |
D-Wave | QBTS | アニーリング |
アイオンキュー | IONQ | イオントラップ |
クオンタム・コンピューティング | QUBT | 光量子 |
ロケット・ラボ | RKLB | 小型ロケット |
プラネット・ラボ | PL | 衛星画像 |
5. まとめ:後追い投資は機能するのか
開示書類から見えてきたトランプ氏の取引パターンには、いくつかの共通項があります。
第一に、米国経済の象徴的な銘柄、AI/半導体/防衛/エネルギーといった政策の重点領域、そして経営者と個人的関係を持つ企業に偏りが見られる点。第二に、購入から発言・政策との連動までのタイムラグが比較的短いケースが繰り返されている点。第三に、すでに保有が判明した銘柄群の多くが、3月末から5月末までに大幅な含み益を抱えた状態になっている点です。
ただし、
取引が範囲表示でしか開示されないこと
自動運用と裁量取引の切り分けが困難なこと
政策方向に沿う業界でも個別企業への風当たりは異なること(レイセオン批判の例など)
保有判明後の発言・関税・出資といった「触媒」のタイミングは事前に読めないこと
を踏まえると、単純に保有リストをコピーする戦略の再現性は限定的とみる方が無難そうです。一方で、開示書類とKalshi予測市場、政策発信(大統領令・関税・出資)の三点を組み合わせて読むと、政権との親和性が高いセクター・銘柄群の地図はかなり具体的に描けるようになってきました。次の四半期開示と、それまでに大統領が公に名前を出す銘柄を突き合わせていくと、このテーマの精度はさらに上がっていきそうです。
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