バンク・オブ・アメリカ、AIが半導体に次の1兆ドルをもたらすと提示。5大テーマと大幅な目標株価引き上げが示す強気シナリオ
何があった:6月23日に強気レポート、目標株価を一斉引き上げ
バンク・オブ・アメリカのヴィヴェク・アーリャ氏率いるチームは、2026年6月23日付で米国半導体産業に関するレポートを公表した。半導体業界が最初の1兆ドルの累計売上を達成するまでに約50年を要したのに対し、AIの助けにより今後5年でさらに1兆ドルが加わるとの見方を示している。同日は半導体株が急落した局面でもあり、フィラデルフィア半導体指数が一日で大幅安となり、マイクロンも大きく下げる中での発表だったとされる。
同行は2030年の半導体市場の総市場規模を、従来予測の2兆3,000億ドルから2兆7,000億ドルへ引き上げた。これは2025年から年平均成長率約28%を意味する。ウェーハ製造装置の支出予測も大幅に上方修正され、2028年までに2,500億ドル、2030年には最大2,920億ドル程度に達する可能性があるとしている。
目標株価の改定では、マイクロンの引き上げ幅が最も大きく、950ドルから1,500ドルへと変更された。旺盛な広帯域メモリ需要と2028年まで構造的に制約される供給が理由とされ、買い推奨が維持されている。このほかアプライド・マテリアルズが540ドルから720ドル、ラムリサーチが330ドルから480ドル、KLAが210ドルから317ドル、マーベルが240ドルから365ドル、インテルが135ドルから160ドル、クレドが252ドルから340ドルへと、それぞれ引き上げられたとされる。
背景:5大テーマと、2028年まで延びた需要の可視性
同行が挙げた5つのテーマは、いずれもAIインフラ投資の継続を前提としているとみられる。1つめはAIデータセンターシステムで、総市場規模が2025年の2,730億ドルから2030年には約1兆7,000億ドルへ拡大すると見込まれている。2つめは長期供給契約に裏打ちされたメモリの強さと持続性、3つめはチップの複雑化を背景とした半導体製造装置と国内回帰、4つめはAIの電力需要急増から恩恵を受けるアナログチップ、5つめはエージェント型AI向けCPUの需要で、x86とARMを合わせて1,700億ドルのサーバー市場機会があると試算されている。
レポートのもう1つの軸は、AI需要の可視性が2028年まで延びたという判断であろう。同行はメモリ供給がそれまで供給過剰に陥らないとの見方を示し、半導体製造装置支出は2028年にピークを迎えると分析している。この時間軸の延長が、評価の基準年を2027年から2028年へ移す根拠となり、目標株価の引き上げにつながったとみられる。マイクロンが先に発表した決算で複数年の戦略的顧客契約を強調したことも、メモリの持続性というテーマと整合する文脈として受け止められている可能性がある。
驚くべきこと:株価急落の局面で出された強気と、唯一の慎重姿勢
注目すべきは、半導体株が急落した同じ日に、これだけ強気のレポートが出された点であろう。市場のセンチメントが揺らぐ局面で需要の可視性が延びたと主張する姿勢は、足元の調整を構造的な成長シナリオの中の一過程と位置づける見方を反映しているとみられる。アーリャ氏はTipRanksで追跡される上位アナリストの一人とされ、過去の的中率や平均リターンの実績が一定の説得力を持って受け止められている面もあるであろう。
一方で、全体が強気一色の中で唯一の例外となったのがアクセリス・テクノロジーズである。同行は目標株価を130ドルから156ドルへ引き上げたものの、アンダーパフォームの格付けを維持した。ヴィーコとの合併協議による潜在的な収益押し上げ効果を考慮しても、株価はすでに十分に評価されているとの見方を示しており、テーマ全体への強気と個別銘柄の評価は分けて捉えるべきことを示唆しているとみられる。スマートフォンやPC、民生機器向けのチップは2026年に前年比で減少が見込まれるとされ、AIの恩恵がセグメントごとに大きく偏在している点も見落とせない論点であろう。
インパクト:メモリと製造装置への波及、関連テーマの広がり
最も直接的な波及は、メモリと半導体製造装置のセグメントに及ぶとみられる。メモリは同行が最も強気とするセグメントで、2026年だけで前年比約300%の成長が予測されている。マイクロンの目標株価1,500ドルは、先に挙げた他社の引き上げ(D.A.デビッドソンが2,000ドル、UBSが1,625ドルなど)と並ぶ強気水準の一角とされ、HBMの需給逼迫というテーマが複数の証券会社で共有されつつある状況がうかがえる。
製造装置では、ウェーハ製造装置支出の上方修正がアプライド・マテリアルズ、ラムリサーチ、KLAの目標株価引き上げに直結している。2nm世代のゲートオールアラウンド量産が2026年から2028年にかけて本格化し、新プロセス初期の歩留まり低下が装置投資の強度を高めるという構造的な要因が背景にあるとされる。AIインフラ向けでは、共パッケージ光学(CPO)の採用拡大を含むマーベルやクレドのネットワーキング製品が言及されており、光インターコネクト関連のテーマにも連想が広がる可能性がある。国内のサプライチェーンや関連装置・材料銘柄にも、テーマ的な物色を通じて間接的に波及する余地があるとみられる。
総括:可視性2028年というシナリオの検証が論点
今回のレポートは、AI需要の可視性が2028年まで延びたという前提のもとで、半導体の長期成長シナリオを数値で更新したものとみられる。焦点は、この可視性の前提がどこまで持続するかにある。メモリ3社の協調的な設備増強がいつ需給を緩和させるか、AIデータセンター投資が60億ドル規模の巨額資本支出に見合うリターンを生むかといった点は、強気シナリオの蓋然性を左右する論点として残るであろう。目標株価はあくまで証券会社の見立てであり、前提が崩れれば下方修正もあり得る性質のものである点には留意が必要であろう。AIの恩恵がセグメントごとに偏在している以上、テーマ全体の強気をそのまま個別銘柄に当てはめず、需給と利益率構造を銘柄ごとに見極める姿勢が求められるとみられる。
レポートの中で、事実として最も高い成長率が示されているのはメモリです。
バンク・オブ・アメリカは、メモリを5大セグメントの中で最も強気としており、2026年だけで前年比約300%の成長を予測しています。これは他のどのセグメントよりも突出した伸び率です。比較として、コア半導体(メモリを除く非メモリ)は2026年に前年比約27%の成長見通しとされており、メモリの300%という数字がいかに突出しているかがわかります。
実績ベースでもこの傾向は裏づけられているとみられます。先に確認したマイクロンの2026会計年度第3四半期は、売上高415億ドルで前年同期の93億ドルから4倍を超える増収となり、メモリの需給逼迫が数字に表れていました。
ただし、伸び率(成長率)と市場規模(金額の大きさ)は別の軸である点に注意が必要です。金額ベースの市場規模で最大とされているのはAIデータセンターシステムで、総市場規模が2025年の2,730億ドルから2030年には約1兆7,000億ドルへ拡大すると見込まれています。つまり、2026年の単年の成長率で突出しているのはメモリであり、2030年に向けた市場規模の絶対額で最大の機会とされるのはAIデータセンター関連、という整理になります。
逆に、AIの恩恵を受けずに縮小が見込まれるセグメントもあります。スマートフォン向けチップは2026年に前年比約13%減、PC向けが約9%減、民生機器全体で約7%減と予測されており、AIデータセンターの爆発的な成長とは対照的に構造的な出荷減少の圧力に直面しているとされます。AIの恩恵がセグメントごとに大きく偏在している点は、テーマを見るうえで重要な論点であろうとみられます。
BofAレポートは小型株を名指ししていない点を前提に、5大テーマから連想され得る関連銘柄を、テーマごとに整理します。以下はBofAの推奨ではなく、テーマからの連想します
まず構造的な前提として、今回のレポートが直接的な目標株価を引き上げたのは中大型株であり、小型株への影響は2つの経路で間接的に及ぶとみられます。1つめはセクター全体のセンチメント改善で、テーマが強気で語られる局面では関連する小型株にも資金が向かいやすくなる傾向があります。2つめは、5大テーマのうち特定のボトルネックに特化した小型株が、テーマ買いの対象として連想されやすい点です。ただし小型株はボラティリティが高く、半導体株が急落する局面ではコンピュート層の主力株が20〜40%調整する中で、小型の収益化前銘柄はそれ以上に売られやすい性質がある点には注意が必要であろうとみられます。
テーマごとに連想され得る関連銘柄を整理します。
メモリのテーマでは、HBMの需給逼迫が最も確度が高いとされ、マイクロンが主役ですが、NAND側ではサンディスク(SNDK)が2026年に年初来で大きく上昇したと伝えられています。中小型では検査・歩留まり管理のKLA(KLAC、ただし中大型)周辺や、メモリ関連の材料・後工程銘柄が連想の対象になり得ます。
光インターコネクト・CPOのテーマは、NAS様が構造的に優位とみてこられた領域と重なります。AIクラスタの規模拡大で銅配線が物理的限界に近づき、シリコンフォトニクスや共パッケージ光学が次世代解として注目されています。エヌビディアが2026年以降フォトニクスに60億ドル超を投じ、ルメンタムやコヒーレントに各約20億ドル、アヤーラボに5億ドルを投資したと伝えられており、光トランシーバーやInP基板、CWレーザー、EML、VCSELといった部材が全面的にバックオーダー状態にあるとされます。中小型では、シリコンフォトニクスやオプティカルインターポーザに特化したPOET Technologies(POET)などが、このボトルネックへの連想で物色され得る対象とみられます。マーベル(MRVL)やクレド(CRDO)はBofAが目標株価を引き上げた中型寄りの銘柄で、ネットワーキングと電気光学の文脈に位置づけられています。
半導体製造装置・国内回帰のテーマでは、ウェーハ製造装置支出の上方修正がアプライド・マテリアルズ、ラムリサーチ、KLAという大型株に直結しますが、2nmのゲートオールアラウンド量産や先進パッケージング(CoWoS、ガラス基板、EMIB)の拡大に伴い、後工程やテスト、材料の中小型銘柄が連想の対象になり得ます。
アナログ・電力のテーマでは、AIの電力需要急増が背景とされ、データセンターの電力・冷却インフラに関わる中小型の電源・パワー半導体銘柄が間接的な恩恵を受ける可能性があります。SiC・GaNといった新材料では、ウルフスピードやインフィニオンが2025〜2027年に150億ドル超の投資を行うとされ、関連サプライチェーンへの波及も意識されているとみられます。
エージェント型CPUのテーマは、x86とARMで1,700億ドルのサーバー市場機会とされますが、これは主にインテルやARM、AMDといった大型株の領域で、純粋な小型株の連想は相対的に乏しいとみられます。
最後に、留意点をいくつか挙げます。今回確認した範囲では、これらの小型株の多くは収益化前あるいは利益率が不安定な段階にあり、テーマの追い風で大きく上昇する一方、期待の織り込みが先行している分、フォワードガイダンスの未達やマクロのリスクオフで急落しやすい性質があるとみられます。実際、ブロードコムがAI半導体売上を大きく伸ばしながらも2027年ガイダンスを引き上げなかったことで株価が急落した例があり、市場が期待に対して極めて敏感な状態にあるとされます。10年債利回りが4.5%近辺で推移し、年内の利上げ確率が一定程度残る環境は、高バリュエーションの成長株に対する系統的な評価圧力として意識しておく必要があるであろうと考えられます。テーマ全体の強気をそのまま個別の小型株に当てはめず、各銘柄の収益化の進捗、現金燃焼ペース、ボトルネックにおける実際のポジションを一次情報で見極める姿勢が求められるとみられます。
分かりやすくします。
起点となる伸びている米国株ごとに、受注を受ける側の米国上場銘柄を表に整理します。発注関係の多くは報道やチャネル調査に基づく観測で、各社が正式開示した確定情報ではない点を前提にしてください。投資判断はご自身でお願いします。
起点(伸びている米国株) | 受注を受ける側の米国株 | ティッカー | 関係性・位置づけ | 情報の確度 |
|---|---|---|---|---|
マイクロン(MU)/HBM | アプライド・マテリアルズ | AMAT | 先進パッケージングのプロセス装置・材料。ボンダー大手BESIの筆頭株主と報じられHBM積層工程に上流から関与 | 報道ベース・観測 |
マイクロン(MU)/HBM | K&S | KLIC | ボンディング装置。ただしメモリ用途・極薄ダイの実績は限定的とされる | 観測・限定的 |
エヌビディア(NVDA) | マイクロン | MU | HBMを供給。AIアクセラレータの主要メモリ供給元 | 確度高め |
エヌビディア(NVDA) | コヒーレント | COHR | 光トランシーバー。NVDAがフォトニクスに約20億ドル投資と報道 | 報道ベース |
エヌビディア(NVDA) | ルメンタム | LITE | 光部品・レーザー。NVDAが約20億ドル投資と報道 | 報道ベース |
エヌビディア(NVDA) | マーベル | MRVL | ネットワーキング・電気光学。AIクラスタ接続。BofAが目標株価365ドルへ引き上げ | 確度高め |
エヌビディア(NVDA) | クレド | CRDO | 高速接続。BofAが目標株価340ドルへ引き上げ | 確度高め |
エヌビディア(NVDA) | アリスタ | ANET | イーサネットスイッチング。AIクラスタ間接続 | 一般的見解 |
光インターコネクト・CPO | コヒーレント | COHR | 800G/1.6Tトランシーバー。需給逼迫のボトルネック | 一般的見解 |
光インターコネクト・CPO | ルメンタム | LITE | CWレーザー・光部品。バックオーダー状態と報道 | 報道ベース |
光インターコネクト・CPO | POET Technologies | POET | オプティカルインターポーザ・シリコンフォトニクス。小型・収益化前 | 連想・要検証 |
製造装置・国内回帰 | アプライド・マテリアルズ | AMAT | ウェーハ製造装置。BofAが目標株価720ドルへ引き上げ | 確度高め |
製造装置・国内回帰 | ラムリサーチ | LRCX | ウェーハ製造装置。BofAが目標株価480ドルへ引き上げ | 確度高め |
製造装置・国内回帰 | KLA | KLAC | 検査・歩留まり管理。BofAが目標株価317ドルへ引き上げ | 確度高め |
電源・パワー | モノリシック・パワー・システムズ | MPWR | AIサーバーの電力供給。アナログ・電力テーマ | 連想 |
補足として、HBM関連で最有力とされるボンダー装置メーカーのBESI(オランダ)とASMPT(シンガポール)は米国上場ではないため、この表からは除いています。純粋な米国株に絞ると、マイクロンを起点にした受注側の選択肢はアプライド・マテリアルズ周辺にやや限られる構図になります。
情報の確度の列は、BofAが今回明示的に目標株価を引き上げた銘柄を確度高め、報道や投資動向に基づくものを報道ベース、5大テーマからの連想にとどまるものを連想・要検証として区別しています。POETのような小型・収益化前の銘柄は、テーマの追い風で大きく動く一方、期待先行で急落しやすい性質がある点に留意が必要であろうとみられます。各銘柄の実際の受注の有無や規模は、決算説明や受注公表で一次情報を確認する姿勢が求められます。
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