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米国小型株はなぜ赤字企業ほど上昇するのか、ラッセル2000最高値更新の裏で進む収益性を問わない資金流入の構造

米国の小型株指数ラッセル2000が2026年8月13日に3,045.48で最高値を更新し、年初来では22.7%高とS&P500を9.5ポイント上回る水準に達している。注目されるのは上昇の中身であり、指数構成銘柄のうち直近利益が赤字の企業群のパフォーマンスが、黒字企業群を大きく上回る状態が1年以上続いているとみられる。利益を出している企業より、出していない企業のほうが買われる。教科書的な株式評価の順序が反転したこの現象は、AI設備投資の裾野拡大、指数構築ルールの特性、資金調達環境の変質という3つの要素が重なった結果として読み解けるとみられる。本稿ではこの逆転がなぜ生じ、どこまで続き得るのかを構造面から整理していく。
米国小型株はなぜ赤字企業ほど上昇するのか、ラッセル2000最高値更新の裏で進む収益性を問わない資金流入の構造

何があったのか

2026年8月13日の米国株市場で、小型株中心のラッセル2000は前日比0.6%高の3,045.48で引け、従来の高値3,036.98を上回っている。年初来の上昇率は22.7%に達し、2026年に入って27回目の最高値更新にあたるとされる。翌14日には3,060を突破し、年初来ではナスダック100の19%をも上回る展開となっている。上半期としては1991年以来の強さにあたる。

ただし数字の本題は指数水準ではなく、その内訳にあるとみられる。集計データによれば、ラッセル2000の構成銘柄のうち直近12カ月の1株当たり利益がマイナスの企業群は、2025年4月以降で約60%上昇し、黒字企業群の約38%を大きく上回っている。起点を2025年半ばに取った別の集計では、赤字企業群が約154%、黒字企業群が約34%と、格差はさらに極端に開いているとみられる。

指標

数値

対象期間

ラッセル2000終値

3,045.48

2026年8月13日

年初来騰落率

22.7%

2026年初から

S&P500との差

9.5ポイント優位

2026年初から

赤字企業群の騰落率

約60%

2025年4月以降

黒字企業群の騰落率

約38%

2025年4月以降

赤字企業群の騰落率

約154%

2025年半ば以降

黒字企業群の騰落率

約34%

2025年半ば以降

赤字企業の社数

806社(構成比約40%)

直近12カ月ベース

表が示すのは、計測起点の置き方で格差の見え方が2倍以上変わる点であり、上昇が均等に積み上がったのではなく特定の時期に集中して発生した可能性を示唆している。構成銘柄約2,000社のうち赤字企業は806社、黒字企業は1,120社とされ、赤字比率およそ40%という水準自体は数年来ほぼ変化していない。変わったのは比率ではなく、その40%が指数の足を引っ張る側から牽引する側へ回ったという役割の反転にあると考えられる。年初来の上昇率上位には500%を超える銘柄も並んでおり、指数全体の23%という数字が、少数の極端な値動きに支えられている構図がうかがえる。

なぜ起きたのか

要因は単一ではなく、性質の異なる3層が重なっているとみられる。

需要面では、AI設備投資の裾野が大型テック株から2次・3次のサプライヤー層へ広がったことが起点になっているとみられる。データセンターの電力、冷却、光通信部品、試験装置といった領域には、時価総額が小さく現時点では赤字の企業が数多く存在している。市場はこれらに対し、現在の利益ではなく将来AI供給網の一角を占める可能性そのものに値付けをしているとみられ、赤字であること自体が投資対象から外す理由になりにくくなっている。

制度面では、指数の構築ルールが効いている可能性がある。ラッセル2000には黒字であることを組入条件とする収益性スクリーニングが存在せず、赤字企業も時価総額基準を満たせば構成銘柄となり得る。一方で同じ小型株指数でもS&P600は4四半期分のGAAP黒字を組入要件としている。連動する上場投資信託へ資金が流入すれば、赤字企業にも機械的に買いが入る構造であり、資金流入そのものが選別を行わない点が、赤字企業群の上昇を増幅させているとみられる。

資金調達面では、株価上昇と資金調達が相互に強め合う循環が働いている可能性がある。近年の増資手法は、市場価格で少しずつ株式を売却するアット・ザ・マーケット型が主流となりつつあり、株価が高いほど同じ株数でより多くの現金を確保できる。赤字企業にとって株価水準は資金繰りの生命線であり、株価上昇が手元資金を厚くし、資金繰り不安の後退がさらに株価を支えるという再帰的な関係が生じ得る。この局面で買われているのは将来利益だけではなく、倒産確率の低下という側面も含まれていると考えられる。

背景

金融政策の位置づけは、一般に語られる利下げ相場という理解とはやや異なる姿になっている。政策金利は2025年9月以降の3会合連続の利下げで合計0.75ポイント引き下げられた後、2026年7月会合まで5会合連続で3.50から3.75%に据え置かれている。7月会合では投票権を持つ12名のうち3名が利上げを支持したとされ、市場では年内の利上げを織り込む見方すら浮上している。つまり小型株の最高値更新は、追加緩和の進行局面ではなく、緩和の一巡と引き締め方向への警戒が同居する環境で起きているとみられる。

それでも小型株が優位を保っている理由としては、変動金利建て債務の比率が高い小型企業にとって、既に実施済みの0.75ポイント分の利払い負担軽減が損益改善として効き続けている点が挙げられる。7月の消費者物価は前月比0.1%上昇、前年比3.4%上昇と落ち着きを見せ、10年債利回りは4.678%近辺で推移している。金利の絶対水準は依然として高いものの、方向感の不透明さが小型株の上値を抑えるまでには至っていない状況とみられる。

評価面の背景も無視できない。小型株の大型株に対する相対バリュエーションは、過去50年で最も割安な部類の水準に沈んでいたとされ、利益の伸び自体は大型株と大きく変わらないにもかかわらず評価だけが切り下がっていた状態にあった。加えて、企業の利益の質を評価軸とする投資手法は2025年秋にかけて過去30年で最悪の相対パフォーマンスを記録したとされる。長く放置された領域に資金が戻る過程では、質による選別が後回しにされやすいという力学が働きやすいと考えられる。

株価の起点となった2025年4月は、通商政策を巡る混乱で株式市場が底を打った時期にあたる。2026年4月には中東情勢を巡る緊張緩和を受けて小型テック株への資金流入が加速したとされ、リスク許容度の回復が段階的に積み上がってきた経緯もうかがえる。

その結果どうなるのか

赤字企業優位の相場は、産業地図の側にも実務的な変化をもたらしつつあるとみられる。

領域

位置づけ

観察されている動き

AI電力・燃料電池

データセンター向け分散電源

長期赤字からの黒字転換事例が出現、株価は1年で10倍規模の変動

光通信部品

データセンター内部の接続

大型半導体銘柄を上回る株価パフォーマンス

半導体試験装置

先端パッケージの検査工程

年初来で5倍規模の上昇銘柄が発生

バイオテック

開発段階で恒常的に赤字

臨床データ次第の値動きで上昇率上位に混在

小型株連動ETF

指数への資金供給経路

収益性スクリーニングの有無で組入対象が分岐

この銘柄マップが示すのは、赤字企業の上昇が単一のテーマで説明されるものではないという点にあると考えられる。AI供給網に実需で組み込まれつつある企業と、臨床試験の成否に依存するバイオ企業とでは、赤字である理由も将来の収益化経路も全く異なっている。前者は設備投資サイクルという外部要因に、後者は個別の開発イベントに連動しやすく、両者が同じ赤字企業群として一括して語られている点に、現在の相場の粗さが表れているとみられる。

構造面での帰結としては、まず増資による希薄化が進む可能性がある。株価上昇局面で資金を確保する動きが広がれば、1株当たり価値の伸びは株価の伸びを下回りやすくなる可能性がある。次に、指数の定期入替を通じて上昇した銘柄の構成比が高まり、連動資金がさらに集中する経路も想定される。加えて、収益性スクリーニングを持つ指数と持たない指数の成績差が、この相場の性質を測る指標として機能し続ける可能性がある。

インパクト

強気側の読み方としては、現在の赤字が投資フェーズの裏返しにすぎないという解釈が挙げられる。AI関連の設備投資が数年単位で続くのであれば、供給網に位置する小型企業の売上高は先行して伸び、固定費の回収が進んだ段階で利益が非連続に立ち上がる展開もあり得る。実際に長期の赤字から四半期黒字へ転じた事例も出始めており、利益の出現が株価を後追いで正当化する筋道は残されているとみられる。歴史的にも大幅な調整局面の後には小型株が数年にわたり優位となった局面があり、割安な相対バリュエーションと業績改善が重なれば、上昇の持続性は無視できないとの見方もある。

弱気側の読み方は、価格発見機能そのものへの疑義に向かう。赤字企業の株価が黒字企業を継続的に上回る状態は、リスクが適切に価格へ反映されていない兆候として捉えられ得る。小型企業の資本コストが資産利益率を上回っているという指摘もあり、その場合は事業を続けるほど価値が毀損する計算になり得る。AI関連投資の伸びが鈍化した局面では、赤字企業には支えとなる利益の下限が存在せず、下落幅が大きくなりやすい。利上げ観測が現実化すれば、変動金利債務の比率が高い企業ほど損益が急速に悪化する可能性もある。上昇率上位に500%級の銘柄が並ぶ状況は、期待の織り込みが相当に進んだ状態を示しているとも読める。

日常生活への波及

小型株指数は確定拠出年金や積立型の投資信託を通じて、多くの家計の資産に間接的に組み込まれている。収益性を問わない指数に連動する商品を保有している場合、意識せずに赤字企業800社超へ分散投資している状態となり得る点は、実務的な論点となり得る。相場が反転した局面での下落率が大きくなりやすいという性質も、同じ経路で家計に伝わり得る。

実体面では、AI関連の設備投資が電力設備や通信インフラの工事需要を押し上げ、地域の雇用や電力料金にも影響を及ぼしつつある。データセンターの立地地域では電力需給の逼迫が家庭の電気料金に転嫁される事例も指摘されており、株式市場の話題が生活コストと接続する場面が増えているとみられる。

日本市場への波及

日本の個人投資家にとって、米国小型株はネット証券経由で直接購入できる対象となっており、指数連動型の上場投資信託を通じた保有も広がっている。円建てで見た場合は為替変動が上乗せされるため、現地通貨ベースの騰落率とは異なる損益になる点には留意が必要とされる。

構造の対比という意味では、東証グロース市場との違いが示唆的とみられる。日本では上場から5年経過後に時価総額100億円未満の企業を上場廃止とする基準の導入が決まっており、赤字が続く新興企業の選別が制度的に進む方向にある。収益性スクリーニングを持たない米国の小型株指数とは逆方向の設計であり、同じ小型株でも資金が向かう先が制度によって分かれやすい環境になっているとみられる。日本株側では、AI関連の設備投資に連動する電子部品や試験装置の中小型銘柄が、米国小型株の物色と連動して評価される場面も増えていく可能性がある。

中期焦点マイルストーン

当面の観察点としては、9月のFOMCが最初の分岐になるとみられる。利上げを含む選択肢が議論される会合と位置づけられており、金利の方向感が変われば変動金利債務を抱える赤字企業への影響は直接的に及ぶ可能性がある。

次に、7月から9月期の決算発表を通じて、AI供給網に位置づけられる小型企業が売上高の伸びを実際の利益に転換できているかが検証される局面を迎えるとみられる。売上高だけが伸びて損益が改善しない状況が続けば、期待先行の構図が意識されやすくなると考えられる。

加えて、大手クラウド事業者の設備投資計画の更新が挙げられる。裾野への資金流入は最上流の投資計画に依存しており、計画の減速は小型株側により大きく響く構造にあるとみられる。指数の定期入替や11月の中間選挙を巡る政策論議も、需給と規制の両面から中期的な焦点になり得る。

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免責事項

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断は自己責任で行うものとし、記載内容の正確性・完全性について保証するものではない。

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