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DeepSeekが独自推論チップ開発に着手:Nvidia・Huawei依存を断ち切る垂直統合の時代、中国AIチャンピオンの次の一手

Reutersが2026年7月7日に報じた独占情報によれば、中国AIスタートアップのDeepSeekが独自のAI推論チップの開発を進めている。プロジェクトは約1年前から水面下で進行し、外部パートナーやチップ設計会社、ファウンドリ、メモリサプライヤと協議を重ねているという。訓練ではなく推論に特化した設計で、これまで依存してきたNvidiaのH800やHuaweiのAscendから独立したハードウェア基盤を構築する狙いがある。OpenAIがBroadcomと共同開発したJalapenoを発表し、Anthropicも独自チップを検討する中、AI企業がハードウェアまで垂直統合する潮流が中国側にも到達した象徴的な事例となる。
DeepSeekが独自推論チップ開発に着手:Nvidia・Huawei依存を断ち切る垂直統合の時代、中国AIチャンピオンの次の一手

何があったのか

Reutersが3人の関係者を情報源として報じたところでは、DeepSeekは独自のAI推論チップの設計を約1年前から進めており、現在も初期段階にある。同社は水面下でチップ設計チームを拡大しており、公開の求人サイトを介さずにエンジニアを採用してきた経緯もある。パートナーには外部のチップ設計会社、ファウンドリ、メモリサプライヤが含まれ、DeepSeek自身は正式なコメントを控えている。同社創業者の梁文鋒氏は2024年の中国メディアへの珍しいインタビューで、チップ輸出規制が同社にとって課題であることを認めており、独自ハードウェア開発の意図は当時から示唆されていた。

なぜ推論チップなのか

訓練ではなく推論を最初の標的にした選択は戦略的である。訓練はNvidiaがCUDAソフトウェアエコシステムと高速インターコネクト(NVLink、InfiniBand)で圧倒的な優位性を持つ領域で、後発が挑むには数世代分のハードウェアとソフトウェア資産を積み上げる必要がある。加えて、訓練用チップは最先端の製造プロセスを要求し、米国の輸出規制下で中国のファウンドリが利用できる製造ノードでは競争力あるハードウェアを作りにくい。一方、推論はモデルが学習を終えた後の実行フェーズで、ユーザーの1回1回のリクエストに応じてトークンを生成する処理を担う。推論チップは訓練チップより低い演算精度(INT8、FP8など)で十分な場合が多く、メモリ帯域と省電力性能が競争の主軸となる。AIアシスタントの普及に伴って推論需要は爆発的に拡大しており、単位トークンあたりのコストと電力を下げられるカスタムASICを保有することは、AIサービス事業者にとって直接的な原価削減と価格競争力の源泉となる。

DeepSeekのハードウェア戦略の変遷

時期

主要ハードウェア

用途

位置付け

2023〜2024年

NvidiaのH800、一部H100

訓練

輸出規制以前に確保した中国向けカスタム版GPU

2025年

Huawei Ascend系AI加速器

推論への部分移行

国産ハードウェアへのシフト開始

2026年前半

Huawei Ascend 950DT

V4モデルの訓練

1.6兆パラメータモデルを国産チップで訓練

2026年〜将来

独自推論チップ

推論

自社ハードウェアによる垂直統合

DeepSeekの直近のV4モデルはHuaweiのAscend 950DTで訓練され、1.6兆パラメータの大規模モデルを国産チップだけで動かせることを実証した。同社は最新モデルの発表時に、間もなくリリースされる国産チップに適したデータ形式を使用したと表明しており、独自ハードウェアへの布石を明示的に示していた。

AI企業の垂直統合という世界潮流

DeepSeekの動きは、AIモデル開発企業がハードウェアまで垂直統合する世界潮流の中国側での発現である。OpenAIは2026年6月にBroadcomと共同開発した初の独自推論チップJalapenoを発表した。Anthropicも独自AIチップの開発を検討していると2026年4月にReutersが報じている。中国側でもAlibabaのT-Head部門がZhenwuシリーズ、BaiduがKunlunxinを、ByteDanceがCambricon、Huawei、Iluvatar CoreXから調達を進めている。AI企業がハードウェアを自前で持つ理由は3点に集約される。第1に、モデルアーキテクチャに最適化した推論効率で、Nvidiaの汎用GPUに対して単位トークンあたりのコストを大幅に下げられる可能性がある。第2に、供給リスクの回避で、外部サプライヤの供給停止や価格改定に対する依存を減らせる。第3に、地政学的リスクの緩和で、DeepSeekの場合は米国輸出規制の影響を直接的に受けにくくする戦略的意味を持つ。

何ができたのか、何を狙うのか

指標

内容

意義

開発期間

約1年

初期段階、量産までには数年を要する見通し

対象ワークロード

推論のみ

訓練はHuawei Ascendに継続依存

開発体制

独自チーム+外部パートナー

ファブレス方式、設計特化

想定製造委託先

未公表(SMICが本命視)

中国国内ファウンドリでの生産

想定顧客

DeepSeek自社の推論サーバ

内販中心、外販は限定的とみられる

業界インパクトと限界

Nvidia株価は報道直後の時間外取引で1.6%下落したが、Radio Free MobileのRichard Windsorアナリストは、DeepSeekの独自チップがNvidiaに深刻な脅威をもたらす可能性は低いと指摘している。理由は明確で、DeepSeekが最先端の製造ノードにアクセスできない限り、中国国外でシリコンを販売する余地はほぼないためである。Nvidiaは既に中国データセンター向けAIチップ市場からのシェアを実質ゼロまで低下させており、DeepSeekの動きが追加的にNvidiaに与えるダメージは限定的とみられる。むしろ大きな影響を受けるのは、DeepSeekが最大の顧客の1つであるHuaweiである。HuaweiはDeepSeekのV4訓練にAscend 950DTを提供し、次世代ロードマップも公開済みだが、推論領域でDeepSeekに独立されると、Huaweiの国内ハイエンドAIチップ市場での需要基盤が縮小する可能性がある。中国のAI半導体市場は、Huaweiの独占的地位から、複数の垂直統合プレイヤーが並走する構造へと変質しつつあるとみられる。

関連企業と投資視点

企業

関連分野

ティッカー

Nvidia

中国AIチップ市場から実質撤退、CPU(Vera)は継続提供

NVDA

Broadcom

OpenAIのJalapeno共同開発、AI ASIC受託設計で先行

AVGO

Marvell Technology

AI ASIC受託設計、Amazon Trainium/Inferentiaに関与

MRVL

Huawei

Ascendシリーズ、DeepSeekの現行訓練プラットフォーム

非上場

SMIC(中芯国際)

DeepSeek推論チップの製造委託先候補

0981.HK

Cambricon

中国AI ASICの代表銘柄、競合関係に発展の可能性

688256.SH

Alibaba

T-HeadでZhenwu 810E開発、自社モデルとの垂直統合先行

BABA

SK Hynix、Samsung、Micron

HBM供給、DeepSeekチップにも間接的に関係

000660.KS、005930.KS、MU

ASML

EUV露光機、対中規制下でDeepSeekチップの製造ノードを制約

ASML

課題と今後の展望

DeepSeekの独自チップ開発はまだ初期段階であり、テープアウトから量産、実運用までには数年を要するとみられる。第1の課題は製造ノードの制約で、SMICの7nmクラスのDUV製造プロセスに依存する場合、消費電力と単価の両面でNvidiaの最先端Blackwell世代に対して劣位となる。第2の課題はHBMなどの高帯域メモリで、依然としてSK Hynix、Samsung、Micronの3社寡占状態にあり、中国CXMTの追いつきは進むもののHBM4以降の世代でEUV依存が壁となる。第3の課題はソフトウェアエコシステムで、Nvidia CUDA相当のツールチェーンをゼロから構築する必要があり、これは物理チップ以上に難しい課題である。ただしDeepSeekの場合、外販を主目的にせず自社モデルに最適化することで、この課題を実質的に回避できる可能性がある。第4の課題は人材で、中国国内のチップ設計人材は限られており、Huawei、Cambricon、四小龍、Alibaba、Baiduなどが激しく人材争奪戦を繰り広げている。それでも、DeepSeekが世界的な注目を集めるAIモデル企業として垂直統合に踏み出したこと自体が、中国AI産業の成熟段階への移行を示す象徴的な出来事と位置付けられるとみられる。今後数年で、モデル開発企業がハードウェアを持つのが標準となる時代が到来する可能性がある。

要点を整理する。

モデル開発企業がハードウェアを持つとは

現状のAI業界の構造は、モデル開発層(OpenAI、Anthropic、DeepSeek、Google、Meta等)とハードウェア層(Nvidia、AMD、Huawei等)が分業している。モデル開発企業はNvidiaのGPUを大量購入して自社モデルを訓練・推論する。

これが垂直統合の方向に変わりつつある。モデル開発企業が自社モデル専用のチップを自ら設計し、外部GPUへの依存を減らす動きである。

既に進んでいる事例

企業

独自チップ

状況

Google

TPU(Tensor Processing Unit)

第7世代まで到達、Gemini訓練・推論の主力

Amazon

Trainium、Inferentia

自社クラウドAnthropic向けに大量供給

Meta

MTIA

内製推論チップ、量産展開中

Microsoft

Maia

Azure向けAI ASIC

OpenAI

Jalapeno

Broadcomと共同開発、2026年6月発表

Anthropic

開発検討中

2026年4月Reuters報道

DeepSeek

推論チップ

今回の話

Alibaba

Zhenwu 810E

T-Head部門が開発

主要なモデル開発企業のうち、Nvidiaに100%依存しているところは少数派になりつつある。

なぜこの流れが加速するのか

第1に、推論コストの構造問題である。AIサービスが普及すればするほど、推論リクエストが指数関数的に増える。Nvidia GPUを買い続けるコストは、ChatGPT型サービスの粗利率を圧迫する。自社モデルに最適化した推論ASICを持てば、単位トークンあたりのコストを大幅に下げられる可能性がある。

第2に、Nvidia依存のリスクである。Nvidiaは供給量と価格の両方を握っており、モデル開発企業にとって最大の可変費用となっている。垂直統合すればこの依存を減らせる。

第3に、モデルアーキテクチャとハードウェアの共設計(co-design)で性能を出しやすくなる。自社モデルの計算パターンを知り尽くしたチップを作れば、汎用GPUより効率的な設計ができる。

標準となるの意味

現在は独自チップを持つのが例外的で、Nvidia GPUを使うのが標準である。この関係が逆転し、大手モデル開発企業は独自チップを持ち、Nvidiaは補助的な位置付けとなる、あるいは訓練専用に限定される可能性がある、という見立てである。

小規模なモデル開発企業は引き続きNvidiaやクラウド事業者経由で外部ハードウェアを使うとみられる。ただし、フロンティアモデルを大規模に運用する企業にとっては、独自チップを持つことが競争力の前提条件になる可能性がある。

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