IPO後の静観期間明けに13社が一斉カバレッジ、量子コンピューティング純粋再生株のQuantinuum(QNT)に強気レーティングが集中
何があったのか
2026年6月29日、QNTのIPOクワイエット・ピリオドが終了したことを受け、JPMorgan(目標97ドル・Overweight)、BofA Securities(100ドル・Buy)、Needham(100ドル・Buy)、UBS(93ドル・Buy)、Jefferies(90ドル・Buy)、Evercore ISI(98ドル・Outperform)、Mizuho(90ドル・Outperform)、Bernstein(94ドル・Outperform)、Cantor Fitzgerald(90ドル・Overweight)、Craig-Hallum(100ドル・Buy)、TD Cowen(Buy)など複数の大手証券がカバレッジを開始した。最高目標株価はRosenblattの155ドルとなっている。唯一の慎重派はMorgan Stanley(78ドル・Equal-Weight)で、量子コンピューティングがまだ初期段階にあるとの見解を示したとみられる。同日の株価はプレマーケットで約5%上昇し、IPO価格60ドルからの累積上昇率はおよそ25%に達した可能性がある。
背景:なぜこのニュースが出たのか
Quantinuumは2021年、HoneywellのHoneywell Quantum SolutionsとCambridge Quantumの合併により設立され、2026年6月4日にナスダックへ上場した。IPOは当初の想定レンジ45〜50ドルから段階的に引き上げられ、最終的に60ドルで2,800万株を売り出し、約16.8億ドルの資金調達に成功したとみられる。
量子コンピューティングセクターには近年、米連邦政府の支援(EO 14412/14413、OMB M-26-15等)が相次いでおり、商務省からQNT向けに1億ドルの連邦支援が計画されていると報じられている。こうした政策追い風がIPO時の投資家需要を後押しし、上場初日からおよそ25%高い水準で推移するなか、クワイエット・ピリオド明けのカバレッジ開始に注目が集まっていたとみられる。
業績・事業データ
指標 | 直近実績 | 前年同期 | 増減 |
|---|---|---|---|
売上高(通期2025) | 3,090万ドル | 2,300万ドル | +35% |
売上高(Q1 2026) | 520万ドル | 1,910万ドル | ▲73% |
純損失(通期2025) | 1億9,260万ドル | 1億4,410万ドル | 拡大 |
純損失(Q1 2026) | 1億3,660万ドル | — | — |
粗利率(直近12ヶ月) | 約74% | — | — |
研究開発費(2025) | 1億6,540万ドル | — | 売上高の約5.4倍 |
2025年受注(Bookings) | 7,930万ドル | — | — |
Q1 2026受注 | 130万ドル | — | 大幅減少 |
手元現金 | 約6億7,700万ドル | — | — |
フリーキャッシュフロー(直近12ヶ月) | ▲2億6,275万ドル | — | — |
時価総額 | 約197.5億ドル | — | — |
ニュースの何が驚くべきことなのか
13社が一斉にカバレッジを開始するのは、クワイエット・ピリオド明けとしても異例の規模感といえる可能性がある。コンセンサス評価はStrong Buyで、12-month平均目標株価はおよそ98.75ドルに形成されているとみられる。
中でもNeedhamの予測は際立っており、Apolloシステム(2029年投入予定)が平均販売価格約5億ドル、クラウド収益10億ドル以上を生む見通しを示し、2025年の売上高3,100万ドルから2031年には43億ドルへ、CAGR約128%という成長シナリオを提示している。UBSも2031年の売上高を約40億ドルと試算しており、複数のアナリストで2031年目標の収れんがみられる。
一方で現状の乖離幅は大きく、時価総額約197.5億ドルに対して直近12ヶ月売上高はわずか1,708万ドルであり、PSRは1,000倍超の水準にあるとみられる。Q1 2026の受注額が130万ドルへ急減しており、売上の不規則性が構造上の課題として残る可能性がある。
根拠を提示する。
PSR1,000倍超
上記2数値から算出:19,750百万ドル ÷ 17.08百万ドル ≒ 1,156倍。
ただしこの数値には注意点がある可能性がある。
直近12ヶ月売上高1,708万ドルは、2025年通期3,090万ドルより低い。これはQ1 2026売上高が520万ドル(前年同期1,910万ドル比▲73%)と急減したため、TTM計算で前年Q1の高水準(セールスタイプリース取引の一時計上分)が抜け落ちた結果とみられる
通期2025売上高3,090万ドルベースで計算するとPSRは約640倍となる。
Investing.comのUBSレポート記事にも、the company's current revenue of just $17 million over the last twelve months との記載があり、TTM1,708万ドルは複数ソースで裏付けられる。
Q1 2026受注額130万ドル
ebc.com記事に、Quantinuum reported $79.3 million in 2025 bookings, but only $1.3 million in Q1 2026 bookings と明記されている
株価・市場の反応
IPO価格60ドルに対し、クワイエット・ピリオド明けの6月29日にはプレマーケットで約5%上昇。翌日以降の推移で時価総額は約197.5億ドルに拡大した。52週レンジは50.10〜82.30ドル、売り残比率(Short Interest)はおよそ1.12%と低水準にあるとみられる。
バリュエーション面では、EPSは今後3年間赤字継続が予想されており、インサイダーの直近3ヶ月での買い付け額は約2,470万ドルとされている。
競合・市場ポジション
企業 | ティッカー | 主な量子技術アプローチ | 主な強み |
|---|---|---|---|
Quantinuum | QNT | トラップドイオン(QCCD) | 2量子ビットゲート忠実度99.921%、論理量子ビット数業界最多水準 |
IonQ | IONQ | トラップドイオン | 商用クラウド提供実績 |
D-Wave Quantum | QBTS | 量子アニーリング | 最適化問題特化 |
IBM Quantum | IBM | 超伝導型 | エコシステム規模 |
Google Quantum AI | GOOG | 超伝導型 | Willow等の研究成果 |
QNTはトラップドイオン方式において、超伝導型(IBMやGoogle)や中性原子型とは異なるアーキテクチャを採用しており、ゲート忠実度と論理量子ビット効率の高さで差別化を図っているとみられる。商業展開済みのシステムとしてはHeliosプラットフォームがAMGN(Amgen)やBMWKY(BMW)に採用されている点が強気材料のひとつとして挙げられる可能性がある。
インパクト:投資家にとって何が変わるか
強気材料
Apolloシステム(2029年目標)が投入された場合、単体での平均販売価格5億ドル規模が想定され、売上規模が数十億ドルへ跳ね上がる可能性があるとアナリストは試算している。量子コンピューティングのTAMはBofAの推定で2025年の約11億ドルから2035年に最大800億ドルへ拡大する見通しとなっており、フォルトトレラント量子コンピュータが実用化した際の恩恵を最前線で受けられるポジションにある可能性がある。Honeywellによるバックアップ、6年間で3世代のシステム商業展開という実行力も他のスタートアップとの差別化点となりうる。
弱気材料
現時点では研究開発費が年間売上高の5倍以上に達しており、フリーキャッシュフローの赤字は直近12ヶ月で約2億6,300万ドルに及ぶ。2025年売上高の約60%が単一顧客(RIKEN)に依存しているとの指摘があり、収益の安定性に懸念が残るとみられる。また2026年12月に想定されるロックアップ解除により株式の売り圧力が高まるリスクもある。PSR1,000倍超という水準は、Apolloの遅延や技術的失敗があった場合の下落幅を極めて大きくする可能性がある。
課題と今後の注目点
次回決算(2026年8月17日予定)での注目点はQ2 2026の受注額の回復度合いとなりそうだ。Q1 2026の受注が130万ドルに急減した点について、企業側がどのような説明をするかが短期の重要イベントになるとみられる。
技術面では、2027年投入予定の次世代システムSolの進捗開示が信用力の試金石になるとみられる。Apolloが計画通り2029年に立ち上がれば2031年の収益シナリオへの視認性が高まる一方、遅延した場合には現在の高バリュエーションへの正当化が難しくなる可能性がある。
競合面ではIONQ、IBM、GOOGのQuantum AI部門の動向、および中性原子型(QUBT、INFQ等)との技術方式間競争の推移が中期的な焦点となる可能性がある。ロックアップ解除、単一顧客依存の解消進捗、連邦資金1億ドルの正式契約化なども継続的にモニタリングが必要とみられる。
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