マクヘンリー元下院委員長"クラリティー法は電気通信法以来最重要"と寄稿 ― 一方で成立確率は82%から32%へ急落、8月7日夏季休会が最後のタイムリミット
何が起こったのか ― 経緯と現状
クラリティー法は米国内の仮想通貨市場に対する包括的な規制枠組みを整備する法案となる。SEC(証券取引委員会)とCFTC(商品先物取引委員会)の管轄区分を明確化し、どの仮想通貨資産が証券として扱われ、どれが商品として扱われるかの分類基準を法定化する内容である。加えて、非カストディ型ソフトウェア開発者を送金業者登録・銀行秘密法の義務から除外する第604条(Blockchain Regulatory Certainty Actを組み込んだ条項)、ステーブルコイン利回りに関する規定なども含まれる包括法案となる。
法案は2025年7月17日に下院を294対134の圧倒的多数で可決した。民主党から70人以上が賛成に回った超党派可決は、米国の仮想通貨関連立法史上で最強の議会承認とされる。2026年5月14日には上院銀行委員会が15対9で承認し、共和党13人全員に加え民主党2人(ルーベン・ギャレゴ、アンジェラ・アルソブルックス両上院議員)が賛成に回った。6月1日には上院立法カレンダーの一般命令(Calendar No. 423)に位置付けられ、本会議審議の対象として正式に登録された。
マクヘンリー氏の寄稿の中身
マクヘンリー氏はノースカロライナ州選出の元下院議員で、下院金融サービス委員会委員長として2023年のFIT21法(21世紀の金融イノベーションと技術法)可決を主導した経緯を持つ人物となる。同氏は今回の寄稿で、クラリティー法の性格が過去の金融改革とは根本的に異なると論じた。
2008年金融危機後に成立したドッド・フランク法など一連の改革は"危機への事後対応"にとどまったとした上で、クラリティー法は"危機に先行した包括的な金融政策"として、約30年前のグラム・リーチ・ブライリー法以来初の取り組みだと評した。
さらに1996年電気通信法との類推が寄稿の核心を成す。1996年電気通信法は、インターネットの商業利用が本格化する直前に成立した米国の通信規制法で、プロバイダーの責任免除条項(通信品位法第230条)を含む同法が整備されたことで、IT企業の急成長と米国の技術覇権の基盤が形成されたとされる。マクヘンリー氏は、明確な規制の枠組みが存在することで起業家が安心して事業を構築できると述べ、仮想通貨においても適切な枠組みが同様の役割を担うとの立場を示した。
安定通貨を規制するジーニアス法(GENIUS Act)が上下両院で超党派の支持を得て可決済みであることも寄稿の中で言及されており、クラリティー法でも幅広い超党派支持が形成されているとの見方が示された。他国が積極的に規制整備を進める中、クラリティー法の成立が米国を世界の資本市場の中心に据える最善の手段だと評価している。
成立確率が32%まで低下した背景
一方、クラリティー法の成立見通しは急速に不透明感を増している。同法が2026年12月31日までに成立する確率は、予測市場プラットフォームのポリマーケット上で過去最低の32%に低下した。コインデスクが7月18日に報じたものである。
成立確率は2026年2月に記録した最高値82%から約50ポイント低い水準にある。5月初旬以降に上院の審議日程が縮小するとともに下押し圧力が強まり、7月4日の非公式署名目標を過ぎたことで市場の悲観が一段強まった状況となる。
成立確率を押し下げている主因は、倫理条項をめぐる与野党の溝である。大統領・副大統領・議会議員ら政府高官が在職中に仮想通貨関連ビジネスから利益を得ることを制限する同条項について、民主党側は厳格化を求めている。背景には、7月1日に米政府倫理局が公表したトランプ大統領の2025年財務開示がある。同開示によると、大統領は在任1年目に仮想通貨関連で約14億ドルの収入を得ており、うち約6億3500万ドルはトランプ関連ミームコインのライセンス収入、5億ドル超はWorld Liberty Financialトークン販売収入とされる。米大統領史上最大規模の個人仮想通貨収入開示となった。
倫理条項をめぐる交渉の現状
民主党上院議員のクリス・バン・ホーレン氏、クリス・マーフィー氏、ジェフ・マークリー氏は倫理問題が解決されない限りクラリティー法への反対を表明した。委員会段階で賛成票を投じたルーベン・ギャレゴ氏、アンジェラ・アルソブルックス氏の両民主党議員も、本会議での賛成には倫理条項の解決を条件としている。
仮想通貨に友好的な民主党上院議員として知られるカーステン・ジリブランド氏も、政府高官の仮想通貨保有を規制する条項の明文化が本会議での賛成の前提条件であると公に表明している。バン・ホーレン氏が銀行委員会段階で提出した倫理修正案は11対13で否決されており、ホワイトハウスは大統領の個人資産を対象とする条項に反対しているとされる。
共和党側でも算段は厳しい。法案可決には60票が必要で民主党票の取り込みが不可欠だが、今月死去したリンジー・グラム上院議員の欠席に加え、ミッチ・マコーネル上院議員の欠席も続いており、共和党は一票も失えない状況に置かれている。トランプ大統領は日本時間7月16日に共和党のシンシア・ルミス上院議員、バーニー・モレノ上院議員と倫理条項について会談したが、17日時点で公式な合意の発表はなかった。
8月7日という物理的な締切
上院は7月13日に会期を再開したが、8月7日の夏季休会まで約4週間の審議期間しか残されていない。この物理的なタイムリミットが、成立確率低下の第2の主因となっている。
仮想通貨投資会社ギャラクシー・デジタルの調査部門責任者、アレックス・ソーン氏は、上院がクラリティー法と並行して国防権限法(NDAA)の審議も開始するとみられると指摘した上で、今後4週間が今期議会においてクラリティー法を成立させる最後の機会となる可能性が高いと述べた。
Stifelのワシントン政策戦略責任者ブライアン・ガードナー氏も、法案は7月末までに上院を通過する必要があり、8月の休会窓を逃せば見通しは物質的に悪化するとの見解を示している。秋の議会カレンダーは国防権限法と歳出予算をめぐる争いが支配的となり、中間選挙運動が始まると超党派の合意形成が構造的に困難になる。
倫理条項以外の争点
倫理条項が最大の障壁とされる一方、クラリティー法には他にも解決していない争点が複数残されている。
第604条は非カストディ型ソフトウェア開発者を送金業者登録・銀行秘密法の義務から除外する条項で、DeFi規制コミュニティが最も実務的に重要と位置付けている項目となる。全米地方検事協会は上院指導部に書簡を送り、第604条が仮想通貨に関わる刑事捜査を実質的に阻害するとして反対を表明している。
ステーブルコイン利回りに関する条項も論点となる。米国銀行協会は現行のクラリティー法案が、ジーニアス法の禁止規定の外側でクラス取引プラットフォームに利回り相当のサービス提供を許す抜け穴を作り出すと主張している。Coinbaseは年間約13億5000万ドルのUSDC報酬収入を得ており、この条項をめぐりCoinbase CEOのブライアン・アームストロング氏は2026年前半のマークアップ手続きを2度延期させた経緯があるが、最終的には法案支持を公表している。
背景にある構造的な意味
クラリティー法が成立するかどうかは、単なる仮想通貨業界の問題を超えた意味を持つ。SECとCFTCが2026年3月17日に発表した5カテゴリー分類による16デジタル資産の合同解釈ガイダンスは、行政措置として整備されたものであり、次期政権によって一夜で撤回可能な性格を持つ。制定法だけが政権交代を跨いで存続する。クラリティー法が提供しようとしているのは、この行政措置レベルではない立法レベルの制度的安定性となる。
欧州連合のMiCA(Markets in Crypto-Assets)規制は既に加盟27カ国で完全施行されており、米国以外の主要経済圏では仮想通貨の規制枠組みが整備される流れとなっている。米国が同水準の制度基盤を確立できるかどうかは、グローバルな仮想通貨業界の重心がどこに移動するかを左右する構造的な問題となっている。
関連する動き
7月8日には米商品先物取引委員会(CFTC)委員長がクラリティー法可決について"非常に近い、絶対に必要だ"と発言している。連邦レベルの仮想通貨資産基準の必要性を強調するもので、行政サイドからの圧力となる。
一方、7月18日にはウォーレン議員がトランプ大統領に対し仮想通貨収益の最新開示を要求する動きも報じられており、倫理条項をめぐる政治的対立は今後さらに先鋭化する可能性がある。
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