光配線という次のボトルネック、その受益者はどこにいるか
銅の限界と光への移行
配線の制約は、伝送速度の上昇に伴って段階的に顕在化してきたとみられる。従来の受動的な銅線は、毎秒200ギガビットの毎レーン速度において、単一のサーバーラックを越える距離を張れなくなり、ラック内部ですら成立しない場面が生じるとされる。1.6テラビット級では、標準的なラック高である2.2メートルを銅線が届かないため、ラック間の配線は光が唯一の選択肢となる構図が示されている。
この物理的な制約は、速度が上がるほど適用範囲を広げる性質を持つ。1.6テラビットでラック間に光が必要となり、3.2テラビットではラック内部にも光が必要になるとの見立てが示されており、光配線が適用される領域が段階的に演算装置へ近づいていく構造にあると考えられる。
電力の観点からも移行が促されている。現在主流の着脱式光モジュールは、1.6テラビット級で1本あたり約30ワットを消費するとされる。その電力の多くは、電気信号の損失と戦うために各端で必要となる信号処理装置に費やされる。ハイパースケールの規模でこれを積み上げると電力負荷が無視できない水準に達し、電力制約に直面しているデータセンターにとっては配線の消費電力そのものが課題を構成する。
これに対し、光学素子を交換用半導体と同一の実装に収める共封止方式では、電気経路がミリメートル単位まで短縮される。これにより損失が大幅に減り、信号処理装置が不要となる。1.6テラビットの接続で経路損失が約22デシベルから約4デシベルへ、1本あたりの電力が約30ワットから約9ワットへ低下するとの数値が示されている。複数の光学機構を少数の光源で共有する設計を併用すれば、光源の数もさらに削減しうるとされる。
移行は3つの段階を経て進むと整理されている。現行の着脱式モジュールが起点にあり、光学機構を実装の近傍へ寄せる近接方式が過渡的な形態として続き、完全な共封止方式が到達点として位置づけられる。近接方式は1本あたり約9ワットまで消費電力を下げるとされ、2026年から2027年にかけて採用が拡大し、着脱式から共封止への橋渡しを担う見通しが示されている。
移行の速度をめぐる論点
光への移行が不可避とされる一方、その速度については見方が分かれる。共封止方式は技術的な方向として支持されているが、今日必要とされる規模で展開できる段階には至っていないとの指摘も示されている。
製造上の難所が移行の速度を規定するとみられる。共封止の組立では、光学素子の位置合わせが資本集約的な工程となる。ナノメートル単位の探索を短時間で実行する多軸の自動整合装置が必要となり、この工程の処理時間が生産量の制約になりうる。接合手法の最適化により結合損失を約11.46デシベルから約2.68デシベルへ改善した事例も報告されており、工程技術そのものが競争の対象となっている構図が読み取れる。位置合わせを製造時に回避する着脱可能な構造を採る手法も提案されており、組立と試験の処理量を高める方向の工夫が進行している。
実装、試験、信頼性を含む生態系の成熟が引き続き制約を成すとの整理も示されている。着脱式モジュールは柔軟性、保守性、生態系の成熟という点で優位を保っており、共封止方式との併存が当面続くとの見方が一般的とみられる。両者は置き換えの関係ではなく、ネットワーク構造の階層ごとに使い分けられる関係として捉えるほうが実態に近いと考えられる。
市場規模の見通しも、移行が漸進的であることを示唆する。共封止方式の市場は2025年に9500万ドル規模とされ、2034年に10億5000万ドル超へ年率30.6%程度で拡大する予測が示されている。年率では高い伸びだが、絶対規模は当面小さい。他方、着脱式の側では毎秒800ギガビット以上のモジュールの世界出荷が2025年の2400万個から2026年に約6300万個へ、単年で2.6倍に増えるとの見通しが示されており、規模の面では着脱式が引き続き産業の中心を占める構図がうかがえる。
共封止方式の適用範囲が交換用半導体を越えて広がる可能性も論点となっている。演算装置間の接続に光を持ち込み、電気的な接続と基板配線の制約を取り除く方向は、交換機周辺の市場を大きく上回る機会を構成しうるとの見立てが示されている。この方向が実現すれば、光配線は周辺装置の改良ではなく演算装置の設計そのものを支える基盤技術としての位置づけを得ることになると考えられる。
受益はどの階層に生じるか
光配線の産業は複数の階層で構成され、階層ごとに担い手と収益化の性質が異なる。受益の所在を捉えるには、この階層構造を分けて見る必要があるとみられる。
主要な階層の構成を整理すると、次の対応関係が観測される。
階層 | 主な構成要素 | 特徴 |
|---|---|---|
光源 | 変調器集積レーザー、CPO向け高出力光源 | 供給者が限られ製造能力が要 |
光半導体 | シリコンフォトニクス、光信号処理 | 電気と光の統合が競争軸 |
モジュール | 着脱式送受信器、能動ケーブル | 規模と量産能力が要 |
製造受託 | 精密光学組立、試験 | 顧客横断で需要を受ける |
材料・基板 | 光ファイバー、結合材、基板 | 需要の裾野が広い |
光源の階層は、供給者が限られる点が構造的な特徴とされる。変調器集積レーザーの分野はLumentum、Coherent、Mitsubishi、Sumitomo、Broadcomといった少数の事業者が担っている。次世代の1.6テラビット向けに必要となる毎レーン200ギガビットの素子を量産出荷しているのはLumentumのみとされ、供給の集中が価格決定力に結びつく構図が観測される。同社は関連工場の拡張に投資しており、2026年に該当素子の価格が二桁の上昇となるとの見方も示されている。
光半導体の階層では、電気と光を同一の実装に統合する能力が競争軸を成す。2021年から2026年にかけて、電気側と光側の技術を橋渡しする目的での再編が相次いだとされる。Astera Labsがドイツの企業を取得して光学結合の技術を内製化した動きや、Marvellが独自の演算用半導体と光学機構を組み合わせる取り組み、Credoが能動電気ケーブルを越えて1.6テラビット級の光信号処理系列へ展開した動きが、この階層の動態を示している。
製造受託の階層は、顧客を横断して需要を受ける位置にある。Fabrinetは光半導体を設計するのではなく、送受信器や部品の組立と試験を担い、LumentumやCoherentを含む顧客に供給する構造にある。技術の勝敗が階層内で決着しても、その製造需要を横断的に受ける位置にあるという点が、この階層の性質と考えられる。
供給網の裾野も広がりを見せている。Tower Semiconductorがシリコンフォトニクス基盤で光回路交換の分野に取り組む動きや、UMCが関連製造技術の実施許諾を受けて2026年から2027年にかけて試験生産を計画する動きが観測される。基盤技術の供給者が増えることは、生態系の成熟を進める一方、階層内の競争条件を変える要素にもなりうるとみられる。
技術展示の場で示される各社の方向性も、階層ごとの競争軸を映している。Lumentumは3D検知向けの量産基盤を活かした光源系列と、共封止方式向けの多波長高出力光源を提示した。Applied Optoelectronicsは交換用半導体の近傍で熱の制約を越えずに800Gと1.6T系統へ十分な光出力を供給する狭線幅の励起光源を投入している。同じ光源の階層でも、既存の量産基盤を転用する道筋と、熱制約の下での出力確保という課題に応える道筋が並存しており、競争が単一の指標で決まらない構造がうかがえる。
材料と基板の階層は、需要の裾野が広い一方で個別技術の識別が難しい性質を持つとみられる。光ファイバー、結合材、基板材料は、方式の勝敗にかかわらず光配線の普及とともに需要が伸びる位置にある。他方、この階層の事業者は光配線以外の事業も広く抱えることが多く、テーマの成長が業績にどの程度反映されるかは事業構成に左右される。階層としての恩恵と、個別事業者への帰属は必ずしも一致しないと考えられる。
織り込みの度合いをどう見るか
光配線が制約であるという認識は、すでに相場で広く共有されている。この点が、前段の冷却や電力とは異なる特徴を構成するとみられる。
相場の反応は顕著に現れている。2026年3月2日にNvidiaがLumentumへ20億ドルの戦略投資と複数年の購入確約を発表し、同時にCoherentへも20億ドルを投じたことで、光学部品が通信向け周辺機器ではなくAI基盤の中核として再定義される契機となったとされる。Lumentumは同年3月にS&P500へ採用され、指数連動の買いも加わった。年初来の値動きでは、Applied Optoelectronicsが441%程度、Lumentumが166%、Coherentが97%といった水準が報じられており、この階層はすでに大きく評価された領域にあると考えられる。
業績面でも成長が確認されている。Lumentumは会計年度第2四半期の売上が前年同期比66%増の6億6550万ドルとなり、光回路交換の受注残が4億ドルを超えたとされる。Applied Optoelectronicsは2026年第1四半期の売上が前年同期比51%増の1億5114万ドル、データセンター部門が2倍超の8140万ドルとなり、大手顧客への800G製品の初回量産出荷を完了したとされる。Fabrinetは同期に11億3000万ドルの四半期最高売上を記録している。構造の変化が業績に転換されている点は確認できる一方、その成長がどこまで価格に織り込まれているかは別の論点となる。
評価水準の点検も要る。予想売上倍率で見ると階層内で開きがあり、一部の銘柄が持続的な高成長と利益率拡大の期待を織り込んだ水準にある一方、相対的に低い水準で評価されている銘柄も存在するとの整理が示されている。同じテーマのなかでも、織り込みの度合いは銘柄ごとに異なるという点は、階層を分けて見る意義を補強するとみられる。
この構造を、冷却の階層と対比すると特徴が際立つ。冷却では技術の中核を非上場の専業事業者が担い、上場市場から見えにくい構造が課題を成していた。光配線では、事情が逆に近い。受益者は上場市場に明確に存在し、認識も共有され、値動きにも反映されている。したがって問われるのは受益者の所在ではなく、その受益がどこまで価格に反映済みかという評価の問題になると考えられる。
制約が銅から光へ移るという物理的な必然性は、複数の観測が一致して示すところとみられる。他方、その必然性が個々の事業者の収益と株価にどう配分されるかは、移行の速度、製造能力の拡張、階層内の競争、そして織り込みの進行度という変数に依存する。次のボトルネックがどこにあるかという問いと、その受益がどこに帰属するかという問いは、切り分けて扱う必要があると考えられる。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断は自己責任で行うものとし、記載内容の正確性・完全性について保証するものではない。
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