CEOが交代した直後の小型株に何が起きているか
学術的な知見が前提とするもの
経営者交代と株価の関係を扱う研究は、いくつかの条件を前提としているとみられる。
まず、交代が取締役会の判断として行われるという前提がある。業績が振るわなければ取締役会が経営者を交代させ、後任が方針を転換するという因果が想定される。研究では、景気後退の局面ほど企業固有の株価収益率が交代の確率を左右すると報告されており、取締役会が株価を経営者の能力を測る材料として用いる構図が示されている。
次に、後任の確保が可能であるという前提がある。交代が価値を生むのは、前任より適した人物が就任する場合に限られる。研究では、外部から後任を招いた場合とそうでない場合で市場の反応が異なることも指摘されている。後任の質が結果を規定する要素になる。
さらに、交代の理由が識別可能であるという前提もある。自発的な退任、解任、年齢による退任では、株価への影響が異なると報告されている。強制的な退任には正の影響が観測される一方、自発的な退任には影響がなく、年齢による退任には負の影響が観測されたとの整理も示されている。理由が判別できなければ、この区別自体が成立しない。
これらの前提は、規模の大きい上場企業ではおおむね満たされる。取締役会が機能し、後継者の候補が存在し、退任の理由が開示と報道を通じて把握できる。他方、1株が1ドルを下回る領域では、いずれの前提も自明ではなくなるとみられる。
標本の性質にも留意が要る。1200件を対象とした分析の期間は1971年から1995年であり、当時の上場企業の構成は現在と異なる。前稿で扱ったとおり、この間に新規上場の量は減少し、指数に組み入れられる企業の性質も変化してきた。研究の対象となった企業群と、現在この領域に位置する企業群が同質であるとは限らない。
観測された効果の大きさも確認しておく価値がある。2日間で0.354%という異常収益率は、統計的には意味を持つ一方、個別の投資判断を左右する水準とは言い難い。平均としての傾向が示されているにとどまり、個々の企業でこの水準の反応が生じることを示すものではない。前稿で扱ったとおり、平均の傾向と個別の結果を混同しない視点は、この場面でも要ると考えられる。
ペニー株で前提が崩れる理由
この領域における経営者交代は、異なる文脈に置かれることが多いとされる。
上場の維持そのものが課題となっている点が、最も大きな違いを成す。ナスダックの規則は改定され、株式併合を実施してから1年以内に最低株価の基準を再び満たせなくなった場合、猶予期間を与えられることなく直ちに上場廃止の判断が下される構成となった。株式併合を繰り返して上場を維持する経路が閉じられた形になる。前稿で扱ったとおり、累積の併合比率が一定の水準に達した場合の即時廃止という規定も別の取引所に存在する。
上場廃止に至れば、多くの場合は店頭市場での取引へ移る。この市場は流動性が低く変動が大きいとされ、資本調達の手段も限られる。上場を回復するには新規の申請が必要とされ、経路は容易でない。したがって、上場基準に抵触している局面での経営者交代は、事業の方針転換というより、この事態への対処として行われる場合があると考えられる。
情報の量にも差がある。取引所に上場する企業は四半期報告、年次報告、臨時報告、委任状説明書の提出を義務づけられ、監査人による確認を受ける。他方、店頭市場の一部の区分ではこれらの義務が課されない。長期にわたり報告を提出していない企業も存在するとされ、事業の実態を確認する手段が乏しくなる。この情報の欠落は、交代の理由を識別することを困難にする。
後任の性質も異なりうる。暫定的な就任にとどまる場合や、他の職務と兼務し企業の運営に充てられる時間が限られる場合が、提出書類のなかに記載された例として存在する。この状態が、事業の継続ではなく別の方向への移行を示す局面もあるとみられる。
流動性の薄さも、交代の影響の現れ方を変える要素になる。前稿で扱ったとおり、板が薄い銘柄では限られた売買で価格が大きく動く。経営者の交代という発表に対して、価格が大きく反応したとしても、その反応が多くの参加者の判断を集約した結果とは限らない。異常収益率という指標そのものが、流動性の乏しい銘柄では解釈の難しい数字になると考えられる。
分析の担い手の不在も、この構図に関わる。規模の大きい企業では、交代の意味を評価する複数の分析者が存在し、その評価が価格に反映される。この領域では、そうした評価の層が薄い。交代の理由や後任の適性を検討する主体が乏しければ、価格は発表の見出しに反応しやすく、内容の吟味は後回しになりうる。前稿で扱った情報の非対称という論点は、この局面でも作用するとみられる。
取締役会の構成も差を生む。規模の小さい企業では取締役の人数が限られ、経営陣との距離も近くなりやすい。研究が前提とする、取締役会が経営者を評価し交代を判断するという構図が、どこまで成立するかは企業により異なると考えられる。
交代の連鎖という論点
経営者の交代が単独で終わらない点も、この領域では重要な論点になるとみられる。
研究では、経営者の交代が1年以内に財務責任者の交代を招く確率を高めると報告されている。この連鎖自体は規模を問わず観測される一方、財務責任者の交代が持つ意味は、財務の状況が厳しい企業ほど重くなる。
実際、この連鎖が上場廃止の根拠とされた事例が存在する。ある企業では、年度の財務諸表の作成と監査が進行する期間に財務責任者と監査委員会の委員長が辞任した。取引所は、これらの辞任の理由が財務報告その他の不適切な事項に関連する可能性について重大な懸念を生じさせるとし、加えて辞任の通知が規定どおりに行われなかったことを挙げて、上場廃止の手続きを進めた。交代そのものではなく、その時期と経緯が問題とされた事例といえる。
確認すべき項目を整理すると、次の構造が観測される。
確認項目 | 記載箇所 | 示唆する内容 |
|---|---|---|
交代の理由 | 臨時報告書の該当項目 | 自発か否か、意見の相違の有無 |
財務責任者の動向 | 同上 | 連鎖の有無 |
監査人の交代 | 臨時報告書の別項目 | 会計処理をめぐる論点 |
継続企業の前提 | 四半期および年次報告 | 資金の状況 |
株式併合の履歴 | 資本に関する注記 | 上場維持の状態 |
臨時報告書には、役員の退任と就任を扱う項目が定められている。ここには、退任が意見の相違によるものであったかどうかを記載する規定が含まれる。意見の相違があった場合、その内容の開示が求められる。多くの発表では相違はなかったと記載される一方、この記載の有無そのものが確認の対象になると考えられる。
監査人の交代も、併せて確認する価値があるとされる。経営者と財務責任者の交代に監査人の交代が重なる場合、会計処理をめぐる論点の存在が推定されうる。それぞれが別の臨時報告書として提出されるため、時系列で並べる作業が要る。
時系列で並べるという作業は、この領域では特に意味を持つとみられる。個々の臨時報告書は、それぞれ単独の事象を伝える。経営者の退任、財務責任者の退任、監査人の交代、上場基準への抵触の通知は、別々の書類として順次提出される。1件ずつ読めば、いずれも定型的な開示に見える場合がある。他方、数か月の期間にわたって並べると、異なる像が浮かぶことがある。
前稿で扱った提出書類の通知は、この作業を支える仕組みとして機能する。企業別に監視を設定しておけば、提出のたびに通知が届く。届いた通知を時系列に記録していけば、個別の書類を追う作業がそのまま時系列の把握につながる。報道が個々の発表を伝えない規模の企業では、この記録が事実上の唯一の追跡手段になる場合もあると考えられる。
役員の異動を扱う臨時報告書は、提出の期限が定められている。原則として事象の発生から4営業日以内とされる。したがって、交代が生じてから開示までの間隔は限られる。この期限があることで、通知を設定していれば発表と近い時期に情報へ到達できる構造になるとみられる。
何を確認するか
以上を踏まえると、この領域における経営者交代の読み方は、期待よりも確認に重心を置くことになるとみられる。
まず、交代の理由が開示されているかを確認する。臨時報告書における記載が、退任の性質を示す最も直接的な情報になる。理由の記載が乏しい場合、その乏しさ自体が情報として扱われうる。
次に、財務の状況と突き合わせる。前稿で扱ったとおり、現金の残高と消費速度から、次の資金調達が必要になる時期が推定できる。経営者の交代がこの時期に近接していれば、交代と調達が関連する可能性が生じる。新しい経営者のもとで増資が実施される展開は、この領域では珍しくないとみられる。
発表の時期そのものも、確認の材料になりうる。前稿で扱ったとおり、市場価格に連動する増資は株価が上昇した局面で実施されやすい。経営者の交代という発表が株価を押し上げた直後に、棚上げ登録に基づく発行が行われる展開はありうる。交代の発表と、棚上げ登録の有効性を併せて確認する作業は、この可能性を把握する手段になると考えられる。
継続企業の前提に関する記載も、確認の対象になる。監査人または経営者が、事業の継続に重大な疑義を生じさせる事象や状況の存在を認識している場合、その旨が財務諸表の注記に記載される。経営者の交代がこの記載と同じ時期に現れていれば、交代の背景を推定する材料になりうる。この記載は四半期および年次の報告書に置かれるため、交代を伝える臨時報告書とは別の書類を確認することになる。
株式数の推移も確認の対象になる。前稿で扱ったとおり、損益計算書の加重平均株式数と、赤字であれば脚注の除外分を併せて見る作業が該当する。交代の前後で株式数がどう推移したかは、経営の方針が株主にとってどう作用したかを測る材料になる。
上場基準への抵触の有無も、この領域では基本的な確認事項になる。最低株価の基準に抵触していないか、株式併合の履歴があるか、抵触した場合の猶予期間がどの段階にあるかは、いずれも提出書類と取引所の通知で確認できる。改定された規則のもとでは、併合後1年以内の再抵触が直ちに上場廃止の判断につながる。
最後に、学術的な知見をこの領域へそのまま適用しない姿勢が要ると考えられる。強制的な交代に正の異常収益率が観測されたという結果は、機能する取締役会と後継者の候補、そして事業の継続を前提とした標本から得られたものになる。上場の維持そのものが課題となり、後任の確保も容易でない環境では、同じ結果が再現される保証はない。前稿で扱った生存者バイアスの論点と同様に、標本の性質を確認せずに結論を移し替えることには無理があるとみられる。
経営者の交代は、企業にとって転換の契機になりうる。他方、この領域においては、交代が転換の始まりを示すのか、事態の深刻さを示すのかは、交代の事実だけでは判別できない。判別の材料は提出書類のなかにあり、その確認は交代の発表と同時に開始できると考えられる。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断は自己責任で行うものとし、記載内容の正確性・完全性について保証するものではない。
Google で優先表示すると、最新の投資情報を最短でお届けできます
後で読み返しやすくなります