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「Made in USA」の追い風、その正体を読み解く

製造業景況感の改善、設備投資計画の積み上がり、ラストベルトでの工場新設報道 ― 米国製造業が久々の明るい数字を示している。政権はこれを関税政策の勝利と位置づける。一方で投資マネーは、AIインフラを支える上流産業に集中的に流れ込んでいる。同じ追い風に見えても、吹いている方向は同じとは限らない。

【公約としての米国工場活性化の位置づけ】

トランプ氏の製造業回帰公約は、2016年の第1期から続く一貫したテーマで、2024年選挙では「Make America Wealthy Again」のスローガンと結びつけて再強化された。背景にあるのは、1990年代以降の米国製造業雇用の喪失(ピーク約1,950万人から2010年代に約1,150万人まで減少)と、それに伴うラストベルト地域の経済的衰退。

政治的には、ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン、オハイオといった激戦州の労働者票を獲得するための中核メッセージとして機能している。経済安全保障の観点では、コロナ禍のサプライチェーン断絶、半導体不足、対中依存リスクが顕在化したことで、製造業の国内回帰(リショアリング)は超党派的にも支持されやすい論点。バイデン政権下のCHIPS法・IRA(インフレ抑制法)も同じ方向性であり、手段が補助金中心か関税中心かの違いと整理できる。

【関税を手段として選んだ論理と実態】

トランプ氏が関税を選好する理由は、(1) 大統領権限で即時発動できる(通商法301条・232条・IEEPA等で議会承認不要)、(2)「外国に払わせる」というメッセージが有権者に分かりやすい、(3) 交渉カードとして再利用可能、という3点に集約される。

第2期では対中関税の大幅引き上げ、対メキシコ・カナダ関税、鉄鋼・アルミの一律関税、相互関税(reciprocal tariffs)といった包括的措置が打ち出された。理論的には、輸入品価格を引き上げることで国内生産品の競争力が相対的に上昇し、企業に国内設備投資を促す効果が期待される。

アナリストとして注意すべき論点は以下。

コスト転嫁の問題。関税は法的には輸入業者が支払うが、実証研究(Amiti, Redding, Weinstein 2019等)では、第1期の対中関税のコストはほぼ100%米国の輸入業者・消費者に転嫁されたと結論づけられている。「中国に払わせる」効果は限定的で、実態は国内のインフレ要因として作用する。

製造業雇用への効果の不確実性。鉄鋼関税で鉄鋼業の雇用は若干増えても、鉄鋼を原料に使う下流産業(自動車、機械、建設)でそれを上回る雇用減が生じうるという上流-下流トレードオフが指摘されている。Fed of New Yorkの分析では、第1期の関税は製造業雇用に対して中立またはわずかにマイナス。

設備投資の判断時間軸。工場建設の意思決定は5〜15年スパンで行われるため、関税政策の継続性が読めない場合、企業はむしろ投資を先送りする傾向がある。

報復関税と輸出産業への打撃。相手国の報復関税は米国の農業・航空機・自動車輸出を直撃し、第1期では農業向けに約280億ドルの救済支出が必要になった。製造業内部でも輸出依存度の高いセクター(航空機、半導体製造装置、産業機械)にはネガティブ。

【最重要の前提変化:2026年2月20日の最高裁判決】

2026年2月20日、最高裁が6対3でトランプ氏のIEEPA関税を違憲と判決(Learning Resources, Inc. v. Trump)。財務省が2026年1月までに徴収した関税収入は2,691億ドルに達していたとされる。

ただし232条で課された鉄鋼・アルミ・家具などのセクター別関税は維持されており、家具については2027年に25%から50%へ引き上げられる予定。実効関税率は16.9%から9.1%程度に低下する見込みと試算されている。

政権は別の法的根拠(232条、301条等)で関税を再構築する方針を示しており、関税ストーリーは完全終焉ではないものの大幅な後退局面に入った。

【「関税かAIか」を切り分ける必要性】

製造業PMIや設備投資といったマクロ指標は、原因を問わず結果だけを映し出す。投資判断・政策判断・経営判断のいずれにおいても、この切り分けを誤ると致命的な意思決定ミスにつながる。

投資家にとっての切り分けの意味。関税起因の製造業回復であれば、政権交代や関税撤回で逆回転するリスクを抱える。AI投資起因であれば、ハイパースケーラーのCAPEXサイクル次第で、政治変動にはある程度耐性がある。買うべきセクターも全く異なる。関税ストーリーが主なら鉄鋼・アルミ・白物家電・繊維・家具など輸入代替セクター。AIストーリーが主なら電力インフラ・変圧器・産業用電源・HVAC・半導体製造装置・産業用ガス・銅などデータセンター上流。

政策決定者にとっての切り分けの意味。AI投資ブームが製造業を持ち上げているだけなのに、その追い風を関税の成果として誤って解釈すれば、関税政策をさらに強化する判断につながりかねず、インフレ昂進というコストだけが残る。

経営者にとっての切り分けの意味。関税起因の需要は政権の継続性に依存するため長期投資には慎重になる必要がある。AI起因の需要なら、ハイパースケーラーのCAPEXガイダンスを見ながら5〜10年スパンでの能力増強を判断できる。

切り分けるための具体的なレンズ。サブセクター別の伸び、地域別の工場建設動向(AI関連はバージニア・テキサス・アリゾナに集中、関税起因なら国境近郊や既存集積地に分散)、設備投資の発注元(ハイパースケーラー4社集中か中小製造業分散か)、輸入統計と国内出荷の比率。

【業界別の恩恵セクターと代表銘柄】

関税恩恵セクター(最高裁判決で大半が後退、232条残存分のみ有効)

鉄鋼:Nucor(NUE)、Steel Dynamics(STLD)、United States Steel(X)、Cleveland-Cliffs(CLF)

アルミ:Alcoa(AA)、Century Aluminum(CENX)

白物家電:Whirlpool(WHR)

自動車(国内生産比率の高い銘柄):Ford(F)、General Motors(GM)

家具(232条で25%関税残存、2027年に50%へ引き上げ予定):関連メーカー

機械・建設機械:Caterpillar(CAT)、Deere(DE)

物流・倉庫:Prologis(PLD)、GXO Logistics(GXO)

AI恩恵セクター(データセンター・電力インフラ系、政権変動に対する耐性あり)

電力機器・送電インフラ:Eaton(ETN)、GE Vernova(GEV)、Quanta Services(PWR)、Hubbell(HUBB)

データセンター冷却・電源:Vertiv(VRT)、Schneider Electric(SBGSY)

半導体製造装置:Applied Materials(AMAT)、Lam Research(LRCX)、KLA(KLAC)、ASML(ASML)

半導体本体:NVIDIA(NVDA)、AMD(AMD)、Broadcom(AVGO)、Marvell(MRVL)

データセンターREIT:Equinix(EQIX)、Digital Realty(DLR)

産業用ガス:Linde(LIN)、Air Products(APD)

銅・電線:Freeport-McMoRan(FCX)

HVAC・空調:Trane Technologies(TT)、Carrier Global(CARR)、Johnson Controls(JCI)

電力会社:Constellation Energy(CEG)、Vistra(VST)、Talen Energy(TLN)

原子力・SMR関連:NuScale Power(SMR)、Oklo(OKLO)

両方の恩恵を受けうるセクター

米国内半導体ファブ建設:Intel(INTC)、TSMC(TSM)、Micron(MU)

(CHIPS法と関税で国内生産インセンティブ、需要側はAI)

産業オートメーション:Rockwell Automation(ROK)、Emerson Electric(EMR)

建設・エンジニアリング:Fluor(FLR)、Jacobs Solutions(J)

【最も割安で放置されていると思われる銘柄 3選】

関税ストーリーが最高裁判決で大幅に後退した前提のもと、関税撤廃でもブレない構造的テーマであるAI関連インフラの中で、評価が出遅れている領域を3つ挙げる。

1. 銅生産企業:Freeport-McMoRan(FCX)

AI関連の電力インフラ拡張で銅需要は構造的に増加しているとみられるが、株価は銅価格の短期変動に振り回されやすく、AI需要の長期テーマがフルに織り込まれていない可能性がある。データセンター1棟あたりの銅使用量は従来の商業ビルの数倍規模で、変圧器・送電線・配電盤・サーバ内配線すべてに銅が使われる。Eaton・Vertiv・GE Vernovaが既にAI銘柄として高PERで買われている一方、その原材料側であるFCXは依然コモディティ株として扱われている乖離がある。新規鉱山開発は環境規制と資本コストで10年以上かかるため、供給制約は中長期的に解消困難。

2. データセンターREIT:Digital Realty(DLR)

Equinix(EQIX)と並ぶデータセンターREITの双璧だが、EQIXに比べて評価が一段見劣りしている。AI関連の需要はハイパースケーラー直接保有(Microsoft、Amazon、Googleが自社建設)に流れているとの見方から、リテール型のコロケーション事業者が割安に放置されている面がある。実態としてはハイパースケーラーも自社で全てを賄うことは不可能で、ホールセール領域(大型区画の長期賃貸)では引き続きDLRが主要プレイヤー。AI関連のリーシング件数・賃料単価は記録的水準にあり、賃貸満了に伴う既存契約の値上げ余地(マーク・トゥ・マーケット)が今後数年にわたって収益を押し上げる構図が残っている。金利低下サイクル入りでREIT全般の評価も改善方向。

3. 産業用ガス:Air Products and Chemicals(APD)

半導体製造で不可欠な高純度ガス(窒素、水素、ヘリウム、特殊ガス)の世界寡占プレイヤーで、Linde(LIN)と並ぶ2強の一角だが、ここ数年は経営方針を巡る混乱とアクティビスト介入で株価が停滞気味。同業のLINと比べて評価ギャップが大きく、AI関連の半導体ファブ拡張(Intel・TSMC・Micron・Samsungの米国新工場)による長期契約の積み上がりが、まだ十分に評価に反映されていない可能性がある。産業用ガスは20年単位の長期契約が一般的で、ファブが稼働すれば数十年にわたる安定収益源になる。AI関連半導体製造装置メーカー(AMAT、LRCX、KLA)が高PERで評価されている一方で、その川下にある工場運営に必須のガス供給側は地味な扱いに留まっている。

【3銘柄に共通する論点】

AI関連の直接プレイヤー(NVDA、VRT、ETNなど)が高評価で取引される一方、その上流・下流・基盤部分にあるコモディティ・REIT・産業ガスといった縁の下が出遅れている、という構造的な乖離に着目した3選。投資判断はリスクとリターンをご自身で検討する前提。

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本記事は情報提供を目的としたものであり、投資勧誘や金融商品取引法に基づく投資助言を行うものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
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