米国のAI・Web3政策、連邦の緩和と州の規制強化が並走する二層構造 CLARITY法は9月15日の議事進行採決へ
政策と制度の内容
Web3側の制度整備は、2025年に成立したGENIUS法から始まっている。決済用ステーブルコインについて連邦レベルの規制枠組みを初めて定めた法律で、2026年はその運用段階に入っている。銀行や事業会社による発行の条件が明確になったことで、参入の可否を法律の解釈ではなく要件の充足で判断できるようになった点が、産業側にとっての実務上の変化に当たる。
その次の段階として位置づけられているのがCLARITY法である。デジタル資産市場の構造を定める法案で、SECとCFTCの管轄を切り分け、多くのトークンをデジタルコモディティとしてCFTCの監督下に置き、SECの権限を証券性が認められる対象に限定する枠組みを想定している。2025年7月17日に下院を294対134で通過した後、上院で滞留していたが、2026年5月14日の上院銀行委員会で15対9により可決された。共和党13名に民主党2名が加わった構成で、民主党側は委員会での賛成が本会議での賛成を保証するものではないと留保を付けている。
行政側の動きも並行している。SECとCFTCは2026年3月17日に共同の解釈指針を示し、Ethereumを含む16銘柄をデジタルコモディティとして整理したとされ、同月23日の官報掲載により発効したと報じられている。さらにSECは2026年8月18日、トークン発行に向けた2つの登録免除とセーフハーバーを含む規則案を公表した。60日間の意見募集にかかる提案段階であり、最終規則ではない。
AI側の制度は、立法ではなく大統領令を軸に動いている。2025年1月20日に前政権のAI安全性に関する大統領令が撤回され、7月23日にAI Action Planが公表された。12月11日には、AIに関する国家的な政策枠組みの確保を掲げた大統領令14365が署名されている。内容としては、司法省にAI訴訟タスクフォースを設置して州のAI法を連邦裁判所で争わせること、商務省に州法の網羅的な評価を行わせること、FTCに州が義務づけるバイアス緩和措置の扱いに関する方針声明を出させること、過度に負担の大きい州法を持つ州に対して連邦のブロードバンド予算の配分を見直す検討を行わせることが含まれる。2026年3月20日には、州法の広範な先取りを議会に求める立法勧告も公表された。
背景と経緯
この一体運用の背景には、AIと暗号資産の双方を、規制対象の産業ではなく国際競争上の戦略資産として扱う発想があるとみられる。AIについては計算資源と電力の確保、暗号資産については取引と発行の拠点性が、いずれも他国との競争の文脈で語られてきた。両者を1人の補佐官が所管する体制は、この位置づけを組織の形で表したものと読める。
Web3側の経緯をたどると、争点は一貫して管轄と投資家保護の水準にあった。CLARITY法の上院での停滞も、規制の是非ではなく細部の設計に起因している。2026年1月12日に上院銀行委員会が公表した278ページの草案は、ステーブルコインの残高保有に対する利回りの提供を禁じる一方、活動に紐づく報酬は認める構成を採った。この草案の内容が伝わった際、Circleの時価総額が1営業日で56億ドル規模減少したとされ、条文の細部が事業モデルに直結することが可視化された。1月14日には予定されていたマークアップが当日に延期され、3月10日の会合で利回りに関する妥協案の調整が進んだと報じられている。
AI側の経緯は、州法の増加に対する連邦の反応という形をとってきた。2025年には予算調停の枠組みで州AI法のモラトリアムを設ける案が共和党の一部議員から提起されたが、上院で否決された。国防授権法に先取り条項を挿入する試みも実らなかった。立法での実現が難しい状況で、行政権限を用いた手段に重心が移ったのが2025年12月の大統領令ということになる。
ただし、この経路には制度上の限界がある。連邦法による先取りは通常、議会の立法から生じるため、大統領令だけで州法が無効になるわけではない。実際、大統領令14365には先取りの対象外とする領域が明記されており、子どもの安全、AIの計算資源とデータセンターに関する規制、州政府によるAIの調達と利用が挙げられている。法律事務所の解説でも、当面は州法の遵守を続けることが現実的な対応として示されている。
市場と産業への影響
Web3側では、制度の確定が資金配分の前提を変える構図になっている。管轄が定まらない状態では、機関投資家にとって法的な尾部リスクの評価が難しく、規模の大きい配分を行いにくい。CLARITY法が成立すれば、この不確実性が縮小する方向に働くと考えられる。もっとも、法律が定まることは自由度の拡大と同義ではない。ステーブルコインの利回り提供を制限する条文が残る場合、既存の収益モデルを前提にしていた事業者には負の影響が及ぶ。規制の明確化は、勝者と敗者を同時に生む性質を持つ。
上場企業への影響という観点では、取引所、ステーブルコイン発行体、カストディ事業者、トークン化証券を扱う金融機関が、条文の細部に直接さらされる位置にある。加えて、デジタルコモディティとして整理される銘柄の範囲が広がるほど、CFTCの監督下で取り扱える商品が増える構図になり、先物や関連商品の設計余地に影響する。
ステーブルコインについては、法的枠組みが定まったことで、決済分野での採用を検討する事業者の判断材料が揃いつつある。銀行や決済事業者が自社ブランドの決済用トークンを扱う動きは、制度の裏づけがない段階では試験的な位置づけにとどまりやすかった。準備資産の要件や償還義務が法律で定まると、監査と会計の処理も標準化しやすくなり、導入判断が技術の問題から採算の問題へ移る。既存の決済ネットワークにとっては、手数料水準と決済速度の両面で競合する選択肢が制度的に認められたことを意味し、中期的な競争環境の変化要因になりうる。
AI側では、連邦の緩和方針が実務上の負担を直ちに軽くするとは限らない点が重要になる。カリフォルニア州のフロンティアAI透明性法が2026年1月1日に、コロラド州のAI法が同年6月30日に施行されており、州ごとに要件が異なる状態は続いている。企業にとっては、連邦の方針と州の要件のうち厳しいほうに合わせる対応が現実的になり、コンプライアンス費用は縮小しにくい。
州の立法動向には変化も見られる。2026年7月1日時点でAI関連法109本、データセンター関連法28本が成立しており、2025年の同時期の121本と27本に比べてAI関連はやや減速している。他方で、成立した法律の内容は、子どもの安全、データセンター、消費者保護へ寄る傾向が指摘されている。これらは大統領令が先取りの対象外とした領域と重なっており、連邦の方針が州の立法の中身を形作っている可能性がある。
注目される後続動向
短期の最大の焦点は、上院が休会から戻る2026年9月14日の翌日に予定されているCLARITY法の議事進行に関する採決になる。これは最終可決ではなく、審議を始めるかどうかを決める段階にあたる。仮に通過しても、その後に本会議の採決、下院案との調整、大統領の署名という工程が残る。11月の中間選挙を挟むため、審議日程の確保そのものが制約条件になりうる。
SECの規則案については、60日間の意見募集を経た後の修正内容が論点になる。登録免除の適用範囲とセーフハーバーの条件がどこに落ち着くかによって、トークン発行の実務上のハードルが変わる。法律の成立を待たずに行政側で運用を先行させる構図であり、立法が滞った場合の代替経路としても機能しうる。
AI側では、司法省のAI訴訟タスクフォースが州法に対して実際にどのような訴訟を提起し、裁判所がどう判断するかが分岐点になる。大統領令による先取りの主張が司法の場で支持されるかどうかは未知数であり、法律事務所の解説でも法的な耐久性に不確実性があるとされている。加えて、立法勧告に沿った連邦法が議会で成立する見込みは、現在の議会構成を踏まえると限定的との見方が示されている。
連邦予算を通じた圧力の実効性も観察点になる。大統領令はブロードバンド整備の予算配分を、州のAI規制の内容と結びつけて検討させる構成を含んでいる。予算を梃子に州の立法を抑える手法は、権限の根拠と条件付けの妥当性をめぐって争われやすく、実際に配分の見直しが行われるかどうかは、訴訟の帰趨と同様に時間を要する論点になるとみられる。商務省による州法の評価やFTCの方針声明といった個別の工程が、どの程度の拘束力を持つ形で運用されるかも、あわせて確認される必要がある。
人事面では、AIと暗号資産を統括する職が空席のまま推移している点も観察対象になる。法案の最終局面で大統領に直接つながる調整役が行政府内に存在しない状態が、審議の進行にどう影響するかは、結果が出てから評価される性質のものと考えられる。
中長期の構造的な含意
この二層構造から読み取れるのは、米国におけるテクノロジー規制の重心が、連邦の単一の意思から、連邦と州の綱引きへ移りつつあるという点とみられる。AIについては、包括的な連邦法が存在しない状態が続く限り、州法の集合が事実上の規制水準を決める。企業が実際に従う基準は、最も厳しい州の要件に収斂しやすく、緩和を掲げる連邦の方針と、現場の運用コストが乖離する構図が残る。
暗号資産については逆に、連邦法による統一の道筋が見えつつある。この非対称は、同じ成長戦略の下に置かれた2つの分野が、制度の成熟度において異なる段階にあることを示している。Web3は管轄の切り分けという比較的定義しやすい問題を扱い、AIは表現、雇用、医療、子どもの安全といった既存の法領域と広く交差するため、単一の枠組みに収めにくい。この違いが、立法の進み方の差として現れていると考えられる。
産業構造への含意としては、規制の予見可能性がコストの一部として資本配分に織り込まれる度合いが高まる点が挙げられる。管轄が定まった領域では、法務費用と参入障壁の水準が計算可能になり、資本が集まりやすくなる。他方、州ごとに要件が割れる領域では、複数州で事業を展開できる規模の企業が相対的に有利になり、規制の分断そのものが規模の経済を生む可能性がある。緩和を意図した政策が、結果として大手への集中を強める方向に働くという逆説も、観察の対象になりうる。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断は自己責任で行うものとし、記載内容の正確性・完全性について保証するものではない。
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