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前回のバイオバブルで10倍になった企業は今どこにいるか

バイオ株の指数であるXBIは2026年8月時点で過去最高値の水準にある。2021年2月に約168ドルから180ドル近辺で頂点をつけた後、2023年には63ドル台まで6割超下落し、2025年4月にも66ドル近辺の安値をつけた指数が、2025年4月以降の1年余りで93%上昇して当時の水準を回復した。数字だけを見れば、前回の相場で高値をつかんだ投資家も報われたように映る。だが指数の回復と、当時の個別企業の回復は別の事柄である。2021年に特別買収目的会社を通じて上場したバイオ企業の多くは、2025年時点で2ドルを下回る水準で取引され、株式併合を実施した企業も少なくなく、上場廃止に至った企業も複数存在するとされる。指数が最高値を更新する一方で、当時の構成企業の多くはその指数から姿を消している。本稿では、前回の局面で急騰した企業がどこへ向かったのかを追い、指数の回復が何を意味しているのかを整理する。特定銘柄の売買を論じるものではなく、構造の解読を主眼とする。
前回のバイオバブルで10倍になった企業は今どこにいるか

指数は戻り、企業は戻らなかった

前回の局面の輪郭を、まず数字で確認する。

XBIは2021年2月に頂点をつけた。感染症の流行によって創薬が最も注目される産業となり、ゼロ近傍の金利が資金の供給を支えた局面にあたる。その後は緩やかな下落が続き、2023年には63ドルから64ドル台まで落ちた。頂点からの下落率は6割を超える。急落というより、数年をかけて水準を切り下げていく推移だったとされる。

2025年4月に66ドル近辺で底を打った後、局面は転換した。2025年は年間で35%上昇し、4月の安値からは75%の上昇となった。同期間のS&P500がそれぞれ16%と37%であったことと比べれば、明確な優位といえる。2026年に入っても上昇は続き、7月下旬までに2025年4月比で93%を超える上昇を記録した。8月時点で指数は過去最高の水準にある。

指数の推移だけを追えば、5年をかけて往復した相場という理解になる。だが当時上場していた個別企業の状況は、この推移と一致しない。2021年に上場したバイオ企業は、2022年時点で平均して公開価格を37%下回る水準で取引されていたとされる。特別買収目的会社を経由した企業の帰趨はさらに厳しく、2025年までに大半が2ドルを下回る水準で取引され、株式併合を実施した企業も多く、上場廃止に至った企業も複数存在すると整理されている。

この乖離が、本稿の出発点になる。指数が回復したという事実と、当時保有していた個別企業が回復したという想定のあいだには、構造的な断絶がある。指数の水準を根拠に前回の局面を振り返ると、実際に起きたことを見誤る余地が残るとみられる。

個別企業がたどった経路

当時の企業がどこへ向かったのかを整理すると、いくつかの類型に分かれる。

主な帰趨の類型を整理すると、次の分布が観測される。

帰趨の類型

内容

株主にとっての意味

上場廃止

基準を満たせず市場から退出

保有株の流動性が失われる

株式併合

株数を統合し基準を維持

持分が併合比率で縮小

破産処理

事業の継続が困難となり整理

普通株の価値が消滅しうる

低価格での買収

頂点を大きく下回る価格で取得

差額が回復しないまま確定

希薄化の継続

事業は継続しつつ株数が増加

1株が示す持分が縮小

具体的な事例を見ると、この類型が抽象論でないことが確認できる。

合成生物学を掲げた企業は、2021年5月に175億ドル規模の評価で特別買収目的会社との合併を公表した。当時の注目度は高く、著名な支援者の名が並んだ。だがその後、株価は1ドルを下回り、2024年8月に1対40の株式併合を実施した。この時点の時価総額は約5億1900万ドルとされる。上場は維持されているものの、当時の40株が現在の1株に相当する計算になる。

同社の事例で注目されるのは、資金を潤沢に確保していた点である。2024年の年初に9億4400万ドルの現金を保有し、多くが上場時に調達した資金とされる。資金が尽きたわけではない。それでも発行済株式数は上場時から45%増加し、株価が過去最高を更新するには341億5000万ドル規模の評価が必要になるという試算が示された。資金を確保しながら、株主にとっての回復の道筋が事実上失われた構図といえる。

遺伝子検査を手がけた企業の経路は、より明確な形で終わった。2021年6月に特別買収目的会社との合併で上場し、35億ドルの評価を得た。上場直後には約60億ドルの時価総額に達している。その後、金利上昇と売上の減速により損失が拡大し、2022年度に1億8400万ドル、2023年度に3億1200万ドルの純損失を計上した。2024年11月には従業員の40%を削減する再編を実施し、2025年3月に連邦破産法第11章の適用を申請した。同年6月に3億500万ドルで非営利法人へ売却され、上場市場から姿を消している。頂点の60億ドルに対し、最終的な取得価格は3億500万ドルという水準になる。

この2つの事例が示すのは、帰趨の形は異なっても、株主にとっての結果が近い水準に収斂しうるという点とみられる。一方は上場を維持し、資金も残しながら、株式併合と希薄化によって当初の持分を大きく縮めた。他方は事業の継続を断念し、上場そのものを終えた。前者は生き残ったと分類され、後者は失敗と分類される。だが2021年の高値で取得した株主の立場から見れば、いずれの経路も回復の道筋を欠く点で共通する。

上場の維持が回復を意味しないという構造は、株数の側から説明できる。株式併合は株価を形式的に引き上げるが、保有株数を同じ比率で減らす。希薄化は株数を増やすが、1株が示す持分を減らす。両者が同じ企業で順に進行すれば、株価の水準が回復しても、当初の投資額に対する回収は達成されない。前者の事例で、過去最高値の更新に341億5000万ドル規模の評価が必要とされたのは、この累積の結果を示す数字といえる。

なぜ指数だけが回復できたのか

指数と個別企業の乖離を生んでいるのは、指数の構成が入れ替わるという仕組みとみられる。

XBIは145社程度で構成され、時価総額による加重ではなく均等に重みを配分する設計とされる。この設計は小型企業への感応度を高める一方、構成銘柄の入れ替えを前提とする。上場基準を満たさなくなった企業、破産処理に入った企業、買収されて消滅した企業は、指数から除外される。除外された時点で、その企業のその後の推移は指数に反映されなくなる。

つまり、2026年に過去最高値を更新した指数は、2021年に頂点をつけた指数と同じ企業群で構成されていない。当時の構成企業のうち脱落したものは既に除かれ、その後に上場した企業や条件を満たすようになった企業が加わっている。指数の水準が回復したという事実は、指数という枠組みが回復したことを示すにとどまり、当時の構成企業が回復したことを示すものではないと考えられる。

この構造は、指数を参照して過去の局面を振り返る際の落とし穴になりうる。指数の推移を見れば、待てば戻ったという理解が導かれやすい。だが実際には、待っても戻らなかった企業、待つ対象そのものが消えた企業が相当数存在する。指数の推移から個別の保有結果を推し量ることには、この点で限界があるとみられる。

前回の局面が緩やかに進行した点も、この理解を難しくする要素になる。頂点から底までに2年以上を要し、急落として認識されにくい推移だったとされる。下落の各段階で、一時的な調整という解釈が成り立つ余地が残り続けた。株式併合や上場廃止が個別に進行しても、指数の水準を見ている限りは全体像として把握しにくい構造にあったと考えられる。

投資対象の選び方によって結果が分かれる点も、この構造の含意といえる。指数に連動する商品を保有していた場合、構成の入れ替えは自動的に処理される。脱落した企業の損失は反映されるものの、その後は新しい構成で推移するため、指数の回復とともに保有の価値も回復する。他方、個別企業を選んで保有していた場合、その企業が脱落すれば、以降の回復は保有の外側で起きることになる。同じ産業に投資していながら、保有の形式によって結果が大きく分かれる構図が生じる。

回復の時期についても差が生じる。指数が底を打ったのは2025年4月とされるが、その時点で既に上場を終えていた企業の株主にとっては、この転換は関係のない出来事になる。局面の転換を待つという判断が有効であるためには、待つ対象がその時点まで存続している必要がある。前回の局面では、転換までの期間が4年を超えており、収益化前の企業がその期間を資金面で乗り切れるかが分かれ目になったとみられる。

回復局面が再来した現在をどう読むか

2026年の環境は、前回の局面の入り口と重なる要素を含む。

新規上場の窓は再び開いた。2026年2月の第1週には、4社が3日間で12億ドルを超える資金を調達した。2021年の局面以来の速度とされ、1社の調達額は3億8100万ドルで2024年以降で最大とされる。非公開で申請を進める企業も控えており、勢いが継続する見通しが示されている。買収も活発化しており、大手製薬企業が開発品目を補充する動きが背景として挙げられる。

支援材料も並んでいる。金利の引き下げが臨床試験の資金調達費用を下げるという見立て、大手製薬企業による買収が15%以上増えるという予想、人工知能が創薬の期間を10年から2年か3年へ短縮しうるという想定が挙げられている。前回の局面で資金供給を支えたのがゼロ近傍の金利だったことを踏まえれば、環境の構図には類似が見られる。

他方、前回との相違を指摘する見方も示されている。指数が最高値圏にあるのは感染症流行の局面を除けば初めてであり、その背景となる状況は当時と大きく異なるという整理である。買収が実際に成立し、承認取得が進む環境は、期待だけで評価が形成された局面とは性質が異なるとみられる。

前回の局面が崩れた理由についても、供給側の要因を挙げる整理が示されている。資金を受けるべきでなかった企業が多数上場したことが、その後の下落の一因とされる。この見立てに立てば、注視すべきは指数の水準よりも、新たに市場へ供給される企業の質ということになる。窓が開いた局面では上場の基準が緩みやすく、開発の初期段階にある企業が公開市場へ出てくる余地が広がる。2026年に入って上場が加速している局面では、この点が確認事項として浮上すると考えられる。

上場の経路にも差がある。前回の局面で問題が集中したのは、通常の公開手続きを経ずに特別買収目的会社との合併で上場した企業群だった。この枠組みは2020年から2021年にかけて多用されたが、現代のバイオ金融において最も損害の大きい出来事の一つとして整理されている。現在の局面では通常の公開手続きによる上場が中心とされ、この点は前回との相違を成す要素とみられる。他方、窓が広く開いた状態が続けば、審査の水準がどう推移するかは観察の対象になると考えられる。

前回の経緯から引き出せる確認事項は具体的である。上場した企業が臨床の実績を伴うのか、開発の段階を経ずに公開市場へ出てきたのか。調達した資金が何年分の運転資金に相当するのか。発行済株式数が上場時からどれだけ増えているのか。特別買収目的会社の枠組みが機能しなかった理由として、臨床のデータも収益も乏しい企業が通常の審査を経ずに上場した点、新株予約権や償還の仕組みが長期の開発期間に適さなかった点が挙げられている。同じ観点を現在の上場企業に当てはめる作業は、局面の判断とは別に実行できる。

指数が最高値を更新している局面では、前回の教訓は想起されにくい。だが前回の局面でも、頂点の時期には同じ楽観が共有されていた。指数の回復が当時の企業の回復を意味しないという構造を踏まえれば、現在の指数の水準もまた、将来の個別企業の帰趨を保証するものではないと考えられる。企業の生存と株主価値の生存を分けて確認する視点は、局面が上向いている時期にこそ意味を持つとみられる。

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断は自己責任で行うものとし、記載内容の正確性・完全性について保証するものではない。

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本記事は情報提供を目的としたものであり、投資勧誘や金融商品取引法に基づく投資助言を行うものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
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