株数が増えると株主の手元で何が起きるのか

株式の価値は、企業価値を発行済株式数で割った商として決まる。分母が増えれば、分子が同じでも1株の取り分は縮む。発行済株式数が1年で50%増えた場合、株価が横ばいであるためには時価総額が50%拡大している必要があり、投資家が保有株数を変えずにいれば、会社に対する持ち分比率は約33%失われた計算になる。

厄介なのは、この負担が複利で効く点にある。年率50%の株数増加が3年続けば株数は約3.4倍となり、株価を維持するだけで時価総額の3.4倍化が要求される。年率20%という一見穏やかなペースでも、5年で約2.5倍に達する計算になる。1株あたり10倍を目指す投資家にとっては、時価総額で25倍近い成長が必要になる計算であり、当初の見立てとは別次元のハードルが課されることになる。株数増加は税率が明示されない代わりに、成長率から静かに一定分を差し引き続ける構造を持つとみられる。

この負担が意識されにくい理由は、開示の構造にもあるとみられる。1株あたり損益は希薄化後株式数を分母として算出されるため、赤字企業では増資によって分母が膨らむほど1株あたり損失額が小さく見える方向に作用しやすい。損失総額が拡大していても、1株あたりでは改善したように映る局面が生じ得る。加えて、投資家の関心は株価の変動に向かいやすく、時価総額と株数の関係を毎四半期追う習慣は定着していない。株価が上昇している最中に持ち分比率が縮んでいても、口座残高が増えている限り違和感は生じにくい構造にある。