ゴールドマンが提唱するHALO銘柄、資本集約×陳腐化耐性が2027年に向けて欧州株の主役を交代させる構造転換
何があったのか
HALOはHeavy Assets, Low Obsolescenceの頭字語で、資本集約性が高く、規制や複雑な工学的参入障壁により模倣が困難で、長期にわたって陳腐化しにくい実物資産を保有する企業群を指す。ゴールドマンの主任グローバル株式ストラテジスト、Peter Oppenheimer氏は、AIによる設備投資ブームが有形資産への需要を持続的に押し上げるとの見方を提示している。欧州の資本集約バスケットにはASML、Safran、LVMH、Air Liquide、Airbusが含まれる一方、資本軽量バスケットにはL'Oreal、Adyen、DSV、Siemens Healthineersが並ぶ。エマージング市場でも同様の傾向が確認され、資本集約株は2025年後半以降で約115%リターン、資本軽量株は7%にとどまるとされる。それでも資本集約株は資本軽量株比で約20%のバリュエーション割引で取引されている。
なぜ今この転換が起きているのか
構造要因は3層に整理できる。まず実質金利の上昇である。過去10年以上、ゼロ金利環境下で成長株の将来キャッシュフローが過剰に評価され、欧州グロース株のバリュー株に対するプレミアムは150%に達していた。実質金利が正常化する局面では、この評価倍率のギャップは自然に縮小に向かう。次に地政学的分断とサプライチェーン再構築である。米中対立、ウクライナ、中東情勢が同時進行する中で、各国政府は自国内での製造能力・エネルギー安全保障・防衛インフラへの財政支出を拡大している。第3に、AI設備投資ブームである。生成AIが軽資産のソフトウェア領域を破壊しつつある一方で、そのAI自身が電力、冷却、データセンター、光ファイバー、変電機器、素材といった重厚な物理インフラを大量に必要とするという逆説が顕在化している。
資本集約 vs 資本軽量の構造比較
項目 | 資本集約(HALO) | 資本軽量 |
|---|---|---|
代表セクター | 公益、エネルギー、素材、防衛、輸送 | ソフトウェア、IT サービス、消費財ブランド |
参入障壁 | 規制、建設期間、工学的複雑性 | ブランド、知的財産、ネットワーク効果 |
AIによる脅威 | 補完関係、需要拡大 | 生成AIによる代替リスク |
実質金利感応度 | 中立〜プラス | マイナス |
現状のバリュエーション | 約20%ディスカウント | プレミアム縮小中 |
EPS成長期待 | コンセンサス上方修正中 | 下方修正リスク |
ROE見通し | 資本集約株が優位 | 軟化傾向 |
ゴールドマンのチームは、EPS成長率とROEの両方でコンセンサス期待が資本集約株に有利となっている点を強調している。単なる評価倍率の循環ではなく、業績モメンタムそのものが逆転している構造変化と位置付けられる。
この転換はどこまで続くのか
短期的にはローテーションが急激に進んだため、テクニカル調整の可能性はある。しかし長期の資金フローで見ると、欧州のバリュー vs グロースファンドへの累積フローは依然として資本残高比で約マイナス40%の状態にあり、投資家は依然としてグロースへの過剰配分を維持している。この歪みが解消されるまでには数四半期から数年を要する可能性が高い。ゴールドマンの見立てでは、AI設備投資ブームは資本集約セクターの需要を2027年から2028年にかけて更に押し上げる展開が予想される。データセンター1施設あたりの電力需要が9ギガワットに達するStratos計画のような案件が本格化すれば、送配電網、ガスタービン、原子炉、変圧器、冷却機器、特殊素材の全てにおいて長期の供給不足が構造化する。
予想される2027〜2028年の展開
第1に、欧州の防衛・エネルギー・公益銘柄への政策資金流入が加速する展開が予想される。ドイツの財政ルール緩和、EU全体の防衛支出拡大、原子力ルネッサンス政策の広がりが同時進行し、これらのセクターの中期売上見通しが構造的に切り上がる。第2に、資本集約企業がAI設備投資の直接的な受益者としてリレートする局面が来るとみられる。ASMLはEUV露光装置の独占的供給者、Safranは航空エンジン、Airbusは民間・防衛航空機、Air Liquideは半導体向け特殊ガスとデータセンター冷却、Siemens Energyは変電・タービンで、いずれも代替不可能な工学的ポジションを持つ。第3に、資本軽量セクターでは生成AIによる収益侵食が現実化する可能性が高まる。SaaS企業のシートベース課金モデル、コンサルティング、コード生成、コンテンツ制作、法務・会計の中間業務が同時に脆弱化する展開が予想される。
関連銘柄マップ
企業 | 分野 | ティッカー |
|---|---|---|
ASML Holding | EUV露光装置独占 | ASML |
Safran | 航空エンジン、防衛 | |
Airbus | 民間・防衛航空 | |
Air Liquide | 特殊ガス、産業ガス | |
Siemens Energy | 送配電、タービン | |
Schneider Electric | データセンター電源、配電 | |
Prysmian | 電力ケーブル、海底ケーブル | PRY.MI |
Legrand | 電力配線、DCインフラ | |
Nexans | 電力ケーブル | |
Vinci | インフラ運営 | |
BAE Systems | 防衛 | BA.L |
Rheinmetall | 防衛、装甲車両 | |
TotalEnergies | 石油、電力 | |
Rio Tinto | 素材、銅、リチウム | RIO.L |
米国銘柄でも同じロジックが働く。NVDA、CEG、VST、TLN、GEV、ETN、VRT、CCJ、DNN、LTBRといった電源・送電・冷却・原子燃料の周辺が同一テーマとして機能する可能性が高い。投資判断は各自で行う必要がある。
AI時代の株価形成原理はどう変わるのか
過去10年間、株式市場はスケーラブルで軽資産のナラティブに高い評価倍率を与えてきた。SaaS、プラットフォーム、ネットワーク効果、無形資産といったキーワードが評価軸を支配し、有形資産を持つ企業は構造的なバリュートラップと見なされてきた。この構図は2026年に入って明確に反転しつつある。ゴールドマンが指摘する希少性の再評価は、AI 製品自体が容易に複製可能になるほど、複製困難な物理資産の相対価値が上昇するという逆説を捉えている。電力網、パイプライン、原子力発電所、EUV露光装置、変電設備、海底ケーブル、リチウム鉱山、ウラン鉱山、防衛産業基盤といった長期償却型の資産群は、AI ブームが加速するほど不足感が強まる構造にある。
課題と今後の展望
短期のリスクとしては、資本集約株の急激な上昇によるテクニカル反落、および欧州景気の下振れによる循環的な需要減退がある。中期のリスクは、原子力・防衛政策の政治的巻き戻し、原油価格急騰による欧州製造業のコスト圧迫、中国の景気減速による素材需要の後退などが挙げられる。ただしゴールドマンチームは、これらの短期リスクを踏まえてもなお、資本集約株のアウトパフォームは持続する可能性が高いとの見方を維持している。次のマイルストーンは、2026年後半のECB政策転換、EU防衛支出パッケージの詳細、AIデータセンター向け電力調達契約の長期化、そして2027年初頭の資本集約株EPSコンセンサス上方修正の第2波となる。市場の視線は、次の10年をどの企業が物理的に構築できるかという問いへと移りつつある。
本記事は情報提供のみを目的とし、特定銘柄の売買を推奨するものではない。投資判断は自己責任で。
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