SpaceXのStarmind構想、AIインフラが宇宙に上がる日にASTSは生き残れるか
誰もが地上を見ていた時、マスクは空を見上げていた
2026年7月、SpaceXは10万基のGen3 Starlink衛星の認可申請書をFCCに提出した。1基あたり1Tbpsの通信能力、ドライマス2,000から2,500kg、超低地球軌道(VLEO)への配備。BNPパリバの試算では、完成時に世界2億人の加入者にサービスを提供でき、うち米国が1,500万から2,000万人を占めるとされる。
だが、この申請は単独で見るべきではない。半年前のGen2衛星7,500基追加申請、そして別枠で申請済みの100万基規模の軌道上データセンターStarmind構想と組み合わせて読む時、初めてイーロン・マスクの本当の絵図が見えてくる。
Starmindは、地上のデータセンターが抱える3つの根本的な制約を、宇宙で解決しようとする構想と目される。1つめは電力で、地上のAIデータセンターは電力網の逼迫に直面している。2つめは冷却で、GPU集積の熱を捨てる場所が地上では有限だ。3つめは土地で、Northern Virginia、Dallas、シリコンバレー周辺の適地はすでに争奪戦の対象となっている。
宇宙は太陽光発電が地上の2倍以上の効率で稼働し、真空が冷却を担い、土地の概念が存在しない。マスクは静かに、AIインフラの物理的制約を宇宙で迂回する道を選んだとみられる。SpaceXの衛星政策担当マネージャーが申請書で語った、AIには膨大なアップリンク容量が必要という一文は、この構想の入口の言葉だ。
眠らずに戦うラジーヴ・バディヤルの焦り
このドラマの反対側にいるのは、AmazonのKuiper責任者ラジーヴ・バディヤルとみられる。彼は元Starlinkのエンジニアで、2020年にAmazonに引き抜かれてKuiperプロジェクトを率いてきた。ジェフ・ベゾスから100億ドルの予算を託され、2026年までにStarlinkに追いつくと約束した男だ。
だが、2026年時点でKuiperの打ち上げ済み衛星は数百基規模にとどまり、Starlinkの数千基には遠く及ばない。Amazonは2025年9月にベトナムでKuiperサービス拡大のため5億7,000万ドルを投じたと報じられたが、これは追走ではなく撤退戦の別名とみられる可能性がある。バディヤルが眠らずに戦っている間に、マスクはすでにブロードバンド競争を超えて、AIインフラの宇宙化という次の戦場に軸足を移し始めている。
もう1人、忘れられている挑戦者がいる。ASTS、AST SpaceMobileのアベル・アヴェラン。テキサス出身のこの起業家は、既存のスマートフォンと直接通信する衛星という独自路線を歩んできた。時価総額は数十億ドル規模と、SpaceXやAmazonから見れば小さな存在だが、AT&TやVerizonといった地上通信キャリアを味方につけてきた。ただし、彼のビジネスモデルはあくまで既存スマホとの直接通信であり、AIインフラの宇宙化という次の潮流には接続しにくい構造とみられる。時価総額は流動性リスクを含むため、小型株投資家は慎重に見る必要がある。
Starshipという1本の綱の上で
Gen3衛星の質量2,000から2,500kgは、Falcon 9では1回に2基しか運べない。この数字は、SpaceXがStarshipの100トンペイロード能力を実運用に載せることを前提としているとみられる。つまり、10万基のGen3計画もStarmind構想も、Starshipという1本の綱の上で成立している。
Starshipは2026年時点で技術的成熟度がまだ確定していない。2025年の複数回の試験飛行では、成功と部分的失敗を繰り返している。もしStarshipの実運用投入が2027年、2028年へと遅れれば、Gen3計画のスケジュールも連鎖的に後ろへずれるとみられる。マスクは自らの野心を、自らのロケットに賭けている構造だ。
一方で、この構造はSpaceXにとっての防波堤にもなっている。競合企業がStarlinkに追いつくためには、同等の打ち上げ能力を確保する必要がある。ULA、Blue Origin、Rocket Lab、これらが束になっても、Starshipの単位打ち上げコスト優位に短期で追いつくのは困難とみられる。
血と涙を流すのは誰か
投資家の視点で、この構想の受益者と敗者を整理したい。SpaceXは非上場のため直接投資できないが、間接受益と目される候補は複数存在する。
直接受益の第1候補は、宇宙関連の防衛産業とみられる。Lockheed Martin(LMT、時価総額約1,200億ドル)、Northrop Grumman(NOC、時価総額約700億ドル)、L3Harris(LHX、時価総額約400億ドル)は、宇宙アセットの防衛需要から恩恵を受ける構図とみられる。第2候補は、宇宙関連の中小型株で、Rocket Lab(RKLB、時価総額約100億ドル規模)、Iridium Communications(IRDM、時価総額約30億ドル規模)などが挙げられる。ただし中小型株は流動性リスクが大きく、価格変動が激しい傾向がある。
血と涙を流すのは、地上のデータセンター用地開発企業、地上の光ファイバー通信企業、そして電力網に依存したAIインフラモデルに全てを賭けている企業だとみられる。ただし、地上データセンターが数年で消えるわけではない。Starmindが実運用に載るのは早くても2030年前後と目され、それまでは地上インフラの需要は継続する。CoreWeave、Equinix(EQIX)、Digital Realty(DLR)といった地上派の巨人たちは、宇宙化の潮流を無視できない時代に入りつつある。
天文学者たちの静かな抵抗
この物語には、もう1つの伏線がある。10万基、そして将来的な100万基の衛星群は、夜空の光害と電波干渉を引き起こす懸念があるとされ、天文学者と環境保護団体からの組織的な抵抗を受けている。国際天文学連合(IAU)は繰り返しSpaceXに懸念を表明してきた。
FCCの認可プロセスは、こうした社会的抵抗を無視できない構造にある。次の注視ポイントは、FCCの認可判断時期、Starshipの試験飛行進捗、そしてSpaceXが2026年後半に予定するGen3初期打ち上げの実行時期とみられる。公式情報源としては、FCCの申請書公開データベース(fcc.gov)、SpaceXの公式アップデートが有用と考えられる。
マスクの絵図が完成する頃、AIは地上ではなく空の上で動いている可能性がある。その時、地上に残された企業は何を売って生き延びるのか。答えはまだ書かれていない。
関連ティッカー
ASTS(AST SpaceMobile、時価総額数十億ドル規模、流動性リスクあり)、RKLB(Rocket Lab、約100億ドル)、IRDM(Iridium、約30億ドル)、LMT(Lockheed Martin、約1,200億ドル)、EQIX(Equinix、約900億ドル)。最新の株価はSEC EDGAR(sec.gov)および各社IRで確認できる。
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